Short&Middle

□Black fool
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「……つまんない男よ?」
「つまんなくって悪かったな」
 どうにでもなれな心境は、ついに本音を口の外へ押し出してしまった。
 自分がフラレ男になるなんて思ってもみなかったと思うほど自惚れてはいないつもりだったが、実際にそうなってみると、心のどこかでそう思っていた自分に気付いて愕然とする。
 言われないと解らないって、どんだけつまんない男なんだよ。
 完全に自己嫌悪の海に沈んでベッドに突っ伏したエマヌエルの頭上から、お構いなくヴァルカの声が降って来る。
「ちなみに、今日何月何日か知ってる?」
「は?」
 別れ話の最中でさえ、自分のペースを乱さないヴァルカにある意味尊敬の念さえ抱きながら、エマヌエルは間抜けな声を出した。
「四月一日に決まってんだろ、何言っ……」
 無意識に答え掛けて、ハタと自分の言った言葉を反芻する。
 四月、一日。
 この日は確かバカげたイベントが存在する日だったような気がする。
 何年前だったか、彼女に、そう、他ならぬ彼女に、だ。「今日何の日か知ってる?」なんて訊かれた記憶が浮上する。
 エマヌエルは、またしてもその青の瞳を見開いて、ノロノロとベッドに突っ伏していた顔を上げた。
「そう、エイプリル・フールよ?」
 悪戯っぽく唇をすぼませたヴァルカは、何食わぬ顔でこちらを覗き込んでいる。
「じゃあ、プロポーズされたってのは」
「それはホント。断ったけどね」
 珍しくにっこり笑った顔が、「まさか引っかかってくれるとは思わなかったけど」と言わんばかりに嬉しそうだ。
 その昔、自分が引っかけられたのが相当悔しかったのか、いつか誰かを引っかけてやろうと思っていたのかは判らない。
 けれども、だからと言って、こういう類の質の悪い冗談は、往々にして癇に障るものが多いのも事実だ。それは、彼女も解っているとばかり思っていたのだが。
「ふっ……」
 鼻先から吐息が漏れる。
「上等じゃねぇの」
「え」
 しっかり油断しきっているヴァルカの左上腕を無造作に掴んで、ベッドの上に引きずり倒す。
「ッ、ちょ、エマ!?」
「四月バカだからって、何しても許されると思ったら大マチガイだぜ」


「あ、あの、」
「なぁ。あんた、確か、何年か前のエイプリル・フールにドッキリ仕掛けられて、相手半殺しにしてたよな」
 クス、と小さく笑いをこぼしたエマヌエルの顔を見上げて、ヴァルカはしまったと思った。
 目の前にあるのは、整いすぎるくらいに整った美貌だ。それが、婉然と微笑んで自分を見下ろしている。
 第三者の立場で眺めれば極上の目の保養だが、今のヴァルカには危険以外の何者でもない。
「ガキの頃の基本的教育が欠如してても、まあ経験で学んだかと思ってたけど……」
 結局この年になっても程良く高さを残したままの、聞きようによってはハスキーな女性のものとも取れる声が、今はオクターブ低くなっている。
「自分がされてイヤなコトは、ヒトにもしちゃいけませんって言葉、知らねぇのか?」
 頬を柔らかく滑る指先の優しい愛撫と、言葉の内容のギャップが、ある意味怖い。
「だ、だから、今日は」
「四月バカ、だよな? それで?」
「じょ、冗談の通じない男って」
「うん、通じる冗談と通じない冗談ってあるよな?」

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