Short&Middle

□Exterminate phantom night
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 普段の彼女なら、透かさず「それ、何にするの?」と訊きそうなところだが、今はCUIO絡みの半分仕事の方が彼女の中で優先したのだろう。
 一歩外へ足を踏み出すと、案の定、仮装で通りを歩いていた子供達が、ハロウィンの決まり文句を口々に叫びながら纏わり付いて来た。あらかじめ購入していた菓子を彼らに与えるのを見ていたヴァルカは、納得したような、それでいて怪訝そうな複雑な表情をしていた。
 道々、そんな子供達に菓子を与えながら進む内、やがて建物が林立する区画を抜けた。子供どころか人通りも途絶えた町外れに、件の現場はあった。
 その一角は、フィアスティック・リベル後、人が住まない状態が続いているらしい。その所為か、街灯も立っていないその場所は、陽が落ちてしまうと真っ暗闇に近い。が、例によって、スィンセティックの暗視能力<ノクト・ヴィジョン>なら、視界に不自由はなかった。
「……にしても、ホントに幽霊なんて出るのかぁ?」
 現場となっている崩れた廃墟を、五十メートル先に見るその場所に立ったエマヌエルは、いかにも胡散臭そうにボソリと呟く。
「あたしだって幽霊なんて信じないクチだけど……」
 不服そうに言うヴァルカが、ホテルを出る前に語ったところによると、コトの発端は今日の昼間だった。
 メストルにあるCUIO付属のSTF本部に駆け込んで来たのは、この付近に住む中年女性だったという。
『本当に出るのよっっ! 夜な夜な、あの廃墟から変な鳴き声がして……』
 その女性によると、取り壊そうとすると、決まって何か事故が起きるのだそうだ。例えば、工事用の重機が突然動かなくなったり、工事に来た人間がどこからともなく降ってきた鉄骨で怪我をしたり。
「……果ては『青白い火の玉が飛んでるー』なんて、怪談の定番みてぇな話だよな」
「あたしもそうは思ったけどね。エマは知らないだろうけど、実はあそこって、ちょっと前までフィアスティックが立て籠もってた場所なのよ」
 これを聞くなり、エマヌエルは「へぇ?」と面白そうに言って、唇の端を吊り上げた。
「ちょっと前って、どのくらい前だ?」
「フィアスティック達が隠れてるのを発見されたのは、エマが危険スィンセティック指定されて少し後ね。で、あたしは嫌いな言い方だけど、『駆除』が完了したのが、半月くらい前だったかな」
 建物をそのままにしておいては、またいつフィアスティックの残党の隠れ家になるやら分かったものではない。早急に片付けよというのが行政のお達しだったが、取り壊そうとする度、事故が起きた為、着工から僅か三日ほどで現場は放棄されたらしい。
「その女の人の言い分じゃ、退治されたフィアスティックの幽霊に違いない、早く除霊してくれって」
「……微妙に駆け込むところ間違ってるよな」
 除霊の依頼なら、その手の職業を営んでいる人間に頼むのが筋ではないのか。
 この疑問をそのまま口に乗せると、ヴァルカも頷いて言った。
「受付の刑事もそう言ったらしいんだけどね。『ここはスィンセティック事件処理をする場所でしょ! 何も間違ってないわよ!!』って」
 これには、エマヌエルも苦笑いするしかなかった。
 フィアスティックが隠れ潜んでいた場所で起きた異変なら、確かにSTFの管轄と言ってもいいかも知れない。微妙に的を射ている反論に、STF受付の刑事も言い返せなかったようだ。
「――で、それはそうと、何であんただけが捜査に行くことになったんだよ」
「仕方ないじゃない。駆け込んで来た彼女は、本部内で『すぐさま解決して、すぐよ!』って喚くし、どうにか宥め賺して夜に調査を延ばして貰ったのはいいけど、夜になったら余計に誰も行きたがらなくて」
「上層部に押し付けられたってトコか」

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