Short&Middle

□Propose Day
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 エマヌエルは、十歳の時に人身売買組織から研究所へ売られた。その際に、表向きには『エマヌエル=ラインハルト=アルバ』という人間は死んだとされ、戸籍も故人としてのそれになっていたのだ。
 フィアスティック・リベリオンから始まった一連の騒動の後、CUIOが、ヒューマノティックに関してはその戸籍を生存者のものとして順次復旧していたのは、ヴァルカも知っている。
「昨日、俺の分も元に戻ったから……その、あんたさえ良ければ、で良いんだけど……」
 戸籍でまで縛られたくなければ、今のままでも良いし。
 慌てたように付け加える様が、何だかおかしくかったが、ヴァルカは吹き出しそうになるのを堪えて、小箱をエマヌエルの方へ滑らせた。
 整った顔に、落胆の陰が射すか射さないかの刹那、ヴァルカは、「はめて?」と言って小首を傾げた。
 え、と言いたげに瞬くコバルト・ブルーに、畳み掛けるように、ヴァルカは言葉を継ぐ。
「ちゃんと言ってよ。してくれるんでしょう?」
 プロポーズ。
 そう続けながら、左手を差し出すと、瞠った青色が苦笑に変わる。
 しなやかな指先が、紅い小箱の蓋を開け、中身を摘み上げる。
 空いた左手が、ヴァルカの左手を取り、シンプルなデザインのリングを薬指に通した。
 流れるような動きで、エマヌエルは、はめたリングにそっと唇を落とし、そのまま唇で指をなぞるように愛撫した。
 伏せられていた瞼の下から、極上のサファイアが覗いて、ヴァルカの紅を捕らえる。
「……悪いけど、放す気ねぇから」
 整い過ぎた美貌から、まともなプロポーズとは言い難い台詞が放たれる。
 ヴァルカは、瞬時目を瞠ると、今度こそ吹き出して返した。
「望むところよ」

(脱稿:2015.06.07. 手直し:2015.06.08.)

ギリギリセーフで、『プロポーズの日』の内に上げたものを、手直ししてこちらにもupしました。

一昨日、たまたま昨日が『プロポーズの日』だと知って、リハビリ兼ねて、エマヴァルで一本ショートを上げたいと思い、急遽執筆しました。
が、昨日中にパソコンが使えるようになるかが分からなかった為、携帯で執筆していたもので、文章全体の俯瞰が見えず、ちょっと苦労しました。

思ったより長くなった上に、二人はこの先もちゃんと結婚しそうにないイメージがあるので、エマのプロポーズはあんな事になってますが、甘い話は書いててやっぱり楽しかったです(^^)

まあ、本当に本気でプロポーズするとしても、エマは「俺と結婚して下さい」とは言わない気がするので、寧ろ彼らしいとは思いますがね(笑)。

ともあれ読了、ありがとうございました。m(__)m

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