モルグ

□G・O・D5+
4ページ/4ページ

パシャパシャとタイルに湯が跳ねる。
熱めのシャワーを頭から全身に浴びて目を閉じる
こうすれば情けなさと惨めさにこみ上げてくる涙もわからない
身体はすぐに綺麗になったが、気がすまなくて何度も何度も執拗なまでに洗った
それでも彼がまだ部屋にいる・・・なんとなく出たくなくて珍しくバスタブに湯をはってみた
普段はシャワーしかまず使わない
しかしここにはボロ屋に似合わぬしっかりとしたバスタブが置いてある
白い浴槽に金の猫足の付いた可愛らしいが大き目のバスタブだ。
俺がここに入った時からあったが、このアパートの標準装備ではないだろう。前の入居者が個人的に入れたもので、たぶん女の子だったんだろうなんて、妄想していたあの頃は若かった。
それが今ではどうしてこんな、男に散々掘られて、そして・・・
「・・・く」
だめだ、思い出してまたジワリと涙ぐんできた。
それを誤魔化すようにバスタブに飛び込み、頭から潜った
ゴボゴボという音がなんだか落ち着く
しばらくそうしてると、合間になんだか声が聞こえた気がした。
顔あげて、耳を澄ましてみる
「おーい、まだ怒ってるのか?悪かったって、もう出て来いよ」
やめてくれ、まるで痴話喧嘩したカップルみたいじゃないか
なんて嫌なこと考えてつつ黙ってたらガラリとドアを開けられた
そのまま中に入ってくる、靴は脱いでるが服を来たまま
「な、な、な」
進入の勢いは止まらず、驚く間もなくザバンという音と共にお湯があふれ出だした
「何してるんですか・・・」
思わず呆けて怒鳴るのも忘れてしまった
「いや、出て来ないからお迎えにあがりました」
「それがなんでこんなことになるんです」
「なに、日本には銭湯と言って男同士で仲良く風呂に入る場所があるんだぞ、だから問題ない」
なにその変態の国。それにしたって服を脱げ、いや脱がなくて良いけど
「セントーだかなんだか知りませんけど、人が入ってる風呂に、しかも浴槽に入ってくるなんて、いったい何考えてるんですか・・・」
「お前のこと」
「・・・俺のこと考えてくれてるなら出てってください」
「なんだよ、落ち込んでるかと思ってやさしくしてやろうと思ったのに」
「だからそう思うならほっといてくださいって」
「もう腹具合はいいのか?」
「・・っ・・うるさい」
「目、赤いけど泣いてたのか?」
「うるさい」
「まさかこの年で漏らすなんて、そりゃショックだよなー」
「うるさいって言ってるじゃないですか!もうやめてくださいよ!!そうですよ、落ち込んでますよ、当たり前じゃないですか!仕事中にあんな・・・」
情けなくて涙が出る、その状況がさらにまた情けなくて思わず下を向いた
「・・・うん、でもまぁ仕事は成功したんだ、あの状況で一発で仕留めるとはやっぱり銃の腕はさすがだな」
なんて言いながら頭をパフっとなでられた
なんだか慰められてるらしいが、元はと言えばすべてこの人のせいじゃないか
フツフツと怒りがこみ上げてくる。だのにこの人はまたこんなことを言う
「ご褒美としてこっちも慰めてやろう」
手を頭から離し、チャプンという音を立てて湯の中に忍ばせる。そして身体に触れてくる
「・・いい加減にしてください」
「えー何まだ怒ってんの?」
「怒ってなくてもさせません。そして怒ってますよ、まだ、腹痛いし」
「あ?出そうなの?」
「違います!もう出すもんなんてないですよ!ただ痛いだけです!!てかずっと痛いんですけど!!」
「すまん」
「もういいです、いいから出てってください」
「・・・わかったよ、今日はやめとく、反省しました、ごめんなさい」
今日は、とか余計な一言は聞こえるし気持ちがこもってるようにはまるで思えないが、確かに立ち上がり出て行った
・・・ビショビショのままで
「ちゃんと拭いてけー!!!」
しばらくしてから風呂から出ると、彼はもういなくてびしょ濡れのタオルとスーツがランドリーケースに残され、代わりに服が一式なくなっていた
サイズ合わないんじゃないかな、なんて心配してやる必要はないよな
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ