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松田めぐみについて聞けば、皆口をそろえて男子テニス部のマネージャーと言う。
幼稚舎からの内部生である瑞季と違い、千聖とめぐみは中等部からの外部生になる。ただ、千聖は何となく氷帝を受験し入学したことに比べ、めぐみは始めから自分のやりたいことを決めて入学した。

それが、マネージャー。特段、男子テニス部のマネージャーだ。否、彼女の場合はむしろ男子テニス部以外眼中になかったと言うべきだろう。

「めぐみ、悪ぃ!そっち終わったらスコア付け頼んでいいか」

部室でドリンクの粉末を溶かしていた彼女に、宍戸は浮かせた汗を拭いながら声をかける。

「わかった!すぐ行くね!」

笑顔でそれに答えると、彼は今一度悪いなと謝ってコートへ戻って行った。めぐみは手早くその場を片付けると、ドリンクボトルを入れたケースを抱えてすぐに外へ飛び出した。

「めぐみ先輩ー!こっちですー!」

鳳がその左手を大きく振り上げて、自分の居場所を示していた。めぐみは近場にあったベンチへドリンクを置いて、適当に取っていってねと笑顔を残して鳳の元へ向かった。

「おまたせ!!」

「いえ!わざわざすみません!」

礼儀正しく腰を曲げ、爽やかな少年らしいあどけなさの残る顔を凛々しくさせた後輩に、お安い御用だよと言ってスコア表を受け取った。

「宍戸、チョタペアと西川、長谷部ペアね!」

うんうんと独りで頷いて、めぐみはベンチに移動した。
コート上で――彼らにとってはまさに戦場である――ラケットが空を切る音とボールが力強く跳ね返る音が鳴り響く。この音が好きだと、彼女は食い入るように見つめた。遠いあの日からずっと親しんできたのだ。ずっと思い描いてきた未来の、ようやく中間地点に立っている。改めて思うと、歓喜に震えた。

さて、部長である跡部が不在の今、マネージャーとしてしっかり部員をサポートしなければと意気込む。春の夕陽はそんな彼女を優しく見守っていた。


「西川と長谷部お疲れ!長谷部ミス目立ってたね?あ、宍戸とチョタもお疲れ!二人もまだ調整必要そうだね」

「ああ、長太郎もっかい打ち合うぞ」

「はい宍戸さん!めぐみ先輩ありがとうございました!」

「どういたしまして!うちは記入しただけだけど!」

打ち合いいってらっしゃいと手を振る。そして彼らを見送り、次の仕事に取りかかろうと周囲を見渡す。遠くに向日と忍足が見えた。どうやら跡部が帰ってくる前に来れたようだと安心した。
そういえば、とめぐみはもう一度周囲をぐるりと見やった。芥川の姿はない。

「あ、樺地ー!ジロちゃん見なかった?」

小柄な彼女と並ぶと、まさに巨人のような出で立ちになる彼は、律儀に首を横に振る。

「いえ…、ただ、美術課題を…美術室に…」

「そうなの?ありがとう」

「ウス」

話を聞くところによると、提出し忘れた課題を思い出し美術室へ行ったのだという。それだけならば直ぐに戻ってきそうなものだが、恐らくまた何処かで眠りこけているか油でも売っているのだろうと考えた。


それからはマネージャー業に追われ、この日もいつの間にか部活時間が終了を迎えた。部室でめぐみが日誌を書き込んでいると、ようやく解放されたらしい跡部がやって来た。

「まだ残ってたのか」

「うん、あともう少しで終わるよ!」

「そうか、なら丁度良いな」

何が?と走らせていたペンを止め、跡部を見つめる。彼は先程まで榊監督と話していたのだろう内容を告げた。

「今年の夏の合宿なんだが、立海とやることになった」

まだ日にちや期間などは調整中だがと、明日伝えるつもりだったが先に言っておくと話した。毎年恒例の夏に行われる強化合宿なのだが、例年通り青学と話を進めていた。だが急遽、向こうの都合がつかなくなり今年は立海と行うことになった。

めぐみのずっと、大事に抱いてきた思いが実る、光が見えた。


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