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□童話
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「ジジイが文学〜〜〜〜〜!!!???」
中国奥地に、おれの絶叫がこだました。
ちなみに現在の時刻は午後9時00分。
山の獣にとっては十分に遅い時間なようで、どこか遠くから不機嫌そうにうなる声が聞こえてきた。
とりあえず、なんでおれが絶叫したかだけど―――。
原因は数分前にさかのぼる。
突然、ジジイがおれに話を振ってきた。
「なあ、小僧」
「ん?」
おれはさっき汲んできた水を口に含みながら適当に答える。
……やっぱり汚染されてない水はうまい。
そんなことを思いながら、もう一口と水を口に含んだとたんに、ジジイが爆弾発言をした(あれ、爆弾発言って使い方あってるのか?)。
「おれ、作家として生きていく覚悟をきめたぜ」
「サッカってなんだ?」
「文学者だ」
おれは盛大に水を噴きだした。
……そして、冒頭のシーンに戻るのだ。
「きったねえなぁ、水噴いてんじゃねぇよ」
誰のせいだという台詞はグッと飲み込む。
「あとうるせぇよ」
誰のせいだという台詞はグッと飲み……これさっきと同じだろ。
脳内でひとりつっこみを行ってから、あらためてジジイに訊く。
「ジジイ、今日の食事のメニューを全部言ってみろ」
「は?」
「いいから、早く」
「えーと、朝はベーコンと卵とパン。昼は野菜か何かのいためたやつ。夜は肉の焼いたやつとわかめみたいなののスープ……だったと思うぜ」
うーん、記憶障害ではないらしい。
「1+5は?」
「はぁ?さっきからなにきいてんだお前」
「答えろ」
「6」
「7×5」
「35」
意識に問題はないようだ。
となると、次は……
「あのなぁ、小僧」
おれが次の脳テストを考えていると、あきれたようにジジイがため息をついた。
「なに考えてるか知らねぇけど、別におれが耄碌してるわけじゃないからな」
そして、キッとこっちを睨む。
そうか、違うのか……てっきりもうジジイが最期なのかと思ったのに。
まあ、このジジイが死ぬわけないか。
おれはエジプトの騒動を思い出す。
あんなメチャクチャな体で動いてたんだもんな……。
一人でうなずいてから、ジジイに改めて問う。
「正気か?ジジイ」
「ああ、正気だ」
「なんでいまさらサッカなんて」
「面白いこと思いついたんだよ」
にやりと笑うジジイ。
おれの背中を冷や汗が一滴滴った。