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□年に一度の
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ハロウィン企画








「まだかしら……」

トントントントン、と規則的なリズムが、バッハのメロディとは無関係に流れている。

音源は、エレオノーレの指先だった。

「まだ来ないでしょう、夜にならないと」

「でももう日暮れでしょう。そろそろ来てもいいんではなくて?」

「まだです、日が沈まなければ」

「……」

エレオノーレはため息をつく。

ふいっと、窓の外を見やる。

窓の下に見える小さな家の窓辺に、小さなかぼちゃの切抜きが張ってあった。

今日は10月31日。

悪戯が許される日、ハロウィンの日である。



「……来ないですね」

「すぐに来られます」

「そういってもう何十分もたってるじゃないですか」

あれから、20分の時が流れた。

未だに、エレオノーレはうずうずしながらバッハの流れる部屋の椅子に座り続けている。

そのすぐ近くには大量の菓子。

「来たら、ちゃんとお菓子あげるのに」

エレオノーレが淋しそうにつぶやいた。

「お嬢様は、幼子がお好きですものね」

シュテラが慰めるような声音で言った。

エレオノーレは先ほどからずっと仮装をした子供が戸口を叩くのを心待ちにしている。

今日は年に一回だけ、子供と交流できる日なのだ。

「シュテラがお外に出して下さったらいいものですのに……」

エレオノーレが恨めしそうにシュテラを見やる。

「絶対だめです。お嬢様はホテルベルリンの四代目総帥。裏世界の人々の格好の標的ですわ」

「それはそうですが……」

こともなげに言われ、しゅんとするエレオノーレ。

そのとき、階下から木を叩く無機質な音が響いた。

ぱっと顔を階下に向け、花が咲いたように微笑むエレオノーレ。

「ああ、来ましたわ!」
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