1

□公務執行妨害未満迷惑以上
1ページ/1ページ

ハロウィン企画










「あらー、おはようヴォルフちゃん」

「……」

むすっとした表情のヴォルフ。

その鋭い両眼は油断なくルイーゼに向けられている。

「……どうしたんだ」

「なにが?」

「その恰好」

「あら、気づいてくれたの?」

ウフっと笑うルイーゼ。

とんがり帽子のてっぺんがゆらっと揺れた。



時は戻ってヴォルフがルイーゼの部屋に入った瞬間。

扉を開けたヴォルフは、部屋を間違えたのだと思った。

そして、いま確実に視力低下しただろう、とも。

ヴォルフが出勤早々に見てしまったものは、魔女の服を着たルイーゼだった。



「何でだと思う、ヴォルフちゃん」

「知るか」

「あなたも探偵卿の端くれでしょ?ちょっとは推理してみなさい」

ルイーゼにいわれて、それもそうかと推理を始めるヴォルフ。

そして、フリーズ。

「さあさあ、わかるでしょヴォルフちゃん?」

固まったヴォルフは何もいえない。

その頬を、冷や汗が一滴滴り落ちた。

「ブッブー!時間切れー!」

嬉しそうに言うルイーゼ。

「正解は今日がハロウィンだったからでしたー!」

ヴォルフは壁にかかるカレンダーを見やる。

今日は十月の最終月曜日、ハロウィンの日だった。

「ほら、ハロウィンだってわかったからには言うことがあるでしょ?」

「なんだ?」

不機嫌そうなヴォルフ。

顔にはわからなかったことに対する不快感が顕著に現れている。

「わからないの?」

「ああ、わからん」

「ほんとに?」

「嘘つく必要があるか」

思いっきり不機嫌そうなヴォルフ。

ルイーゼも、ヴォルフに習うように眉をしかめた。

「ハロウィンといったら『トリックオアトリート』でしょ!常識よ!」

―――そうだったのか……。

ヴォルフは衝撃を受ける。

―――ガキが言うものだとばかり思っていた……。

ルイーゼがいう。

「ほら、いいなさいよ」

ヴォルフの心が、羞恥心と命令遵守心の間で揺れる。

「ほらほら、はやく!」

せかすルイーゼ。

黙るヴォルフ。

そして、終にヴォルフは悟りを開いた。

―――逆らったって何したって、どうせ言わされる。ならば今のうちに、自由意志で言うほうがマシだ。

「……トリック、オア、トリート……ほらっ、これでいいだろおれは通常業務に戻る」

どうにかこうにか長い長い一文(彼にはそう感じられた)を口にしたヴォルフは背を向けて扉に向かう。

翻る白いコート。

「まってヴォルフちゃん忘れ物よ!」

ルイーゼが呼びかけるが、ヴォルフは「後で取りに来る」と答えるだけでそっちをみようともしない。

ムカついたルイーゼは、ハンドバックを取り出した。

そして、飴を物色する。

がさごそと、袋と袋のすれる音。

0.5秒の後、ルイーゼがセレクトしたのは、特別大きなレモンキャンデー。ルイーゼには読めないが、袋に大きく日本語で「ホウ○キ玉」と書いてある。

大体、直径3pぐらいの飴玉だ。

「トリックオアトリートしたのに、お菓子もらってないわよー!」

ルイーゼは飴玉をヴォルフに投げつける。

弾丸並みの速度といきたいところだが、結構な重量があるこの飴玉は、さすがにそこまでの速さにはならなかった。

透き通った黄色のキャンディーは大体時速100km程度で進んでいく。

そして、速度を落とさず飛んで、飛んで飛んで、―――。

ちょうど扉を閉めようと振り返ったヴォルフの眉間を直撃した。

クラリと揺れる意識。

その瞬間、ヴォルフは「ハロウィン」というイベントがこの世から消えてなくなってしまえばいいと、心のそこから願ったのだった。




〜FIN〜

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ