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□本日黒夜ナリ
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ハロウィン企画
「Mr.ブラウンはまだこないの?」
「大丈夫だミネルヴァ、すぐにいらっしゃるさ」
「そんなこといって、もう45分も遅れてるじゃないの!あっちがこのカフェを指定してきたのに!」
コンコンコンコンと規則的にリズムを刻むミネルヴァの指が、その激しさを増す。
その激しさに、わずかにテーブルの上のコーヒーの水面がゆれた。
「わたし、時間にルーズな人嫌いなの。Mr.ブラウンなんかとビジネスするんじゃなかったわ」
「まあまあ、そういわずに……」
苦笑するパラディーゾ。
そのあとで、ふ、とカレンダーに眼をやる。
「……ああ、今日はハロウィンじゃないか。もしかしたら、出かけに子供たちにトリックオアトリートされてるのかもね」
「そんなこと関係ないわ!いくらなんでも45分もトリックなりトリートなりされるわけないわよ!」
ふん、といってそっぽをむくミネルヴァ。
「ミネルヴァがそういうなら、きっと時間にだらしないだけの人なんだろうね」
「その通りよ。わたしの分析に間違いはないわ」
そっぽを向いたままのミネルヴァの横顔が、少々誇らしげなものを含んだものへと変化する。
その理知的だが幼い表情にゆるりと頬を緩めるパラディーゾ。
しかし、何か気にかかったのか、つ、と眉をしかめる。
そして、いまかいまかとあらぬ方向を見やるミネルヴァにきいた。
「ミネルヴァは、その……普通にハロウィンとかやりたくなかったのかい?お友達はみんなやってるそうじゃないか」
はっとパラディーゾの方をむくミネルヴァ。
しかし、すぐにまたもとのように往来のほうへ顔をむけた。
「……やりたくないわよ、あんなバカらしい行事。わたしは他の人とは違うのよ」
何かを振り切るように吐き出すミネルヴァ。
「そうか……」
「そうよ」
そういって往来を見つめ続けるミネルヴァの瞳に、ハロウィンのかぼちゃや魔女のモチーフが映り、ゆらゆらと揺れる。
パラディーゾは、それ以上何も言わずに、もう一口紅茶を啜った。
「他の人とは、違うのよ……」
ミネルヴァの唇から漏れた小さな呟きは、パンプキンケーキの匂いの中に溶けて消えた。
〜FIN〜