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□世界の色
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ーーーーまるでそこは灰色の世界だった。
建物は崩れ、巷には肩パットを装着した何とも悪そうな輩がウヨウヨいやがる。天に光り輝く太陽さえなければ、そこは神楽の故郷と酷似していた。
銀時がいなくなり新八とも意見が合わなくなった神楽は、いつしか万事屋に帰ることはなくなった。野宿したり、空き家を利用したり、なんてことはざらにある。空き家がまた便利なもんで、水道や電気が無料で使えたりするのだ。
ひと気のない道を何の目的もなく傘を差しながら歩く神楽。その足取りは少々おぼつかない。今にも倒れそうだった神楽は、終いには廃墟に背をついてズルズルとしゃがみ込んでしまった。
「おい、大丈夫か」
するといきなり誰かに声を掛けられた。傘を少し上にあげて、声を掛けてきた人物を見る。神楽の霞んできた視界では相手の顔をはっきりと見ることはできなかった。
しかし、この雰囲気は…
「銀、ちゃん…?」
そう呼んでみたところで神楽は意識を手放した。
夢の中で神楽は確かに笑っていた。隣には銀時がいて、新八がいて、定春がいて。三人と一匹でかつての万事屋のように笑いあっている。もうこれ以外何もいらない。この人達さえ居れば自分の世界は回る。本気でそう思った。
しかし突然辺りが真っ暗になった。そこには神楽と銀時と新八がいて、三人だけ暗闇の中でもはっきりと見えた。しかし、銀時と新八は神楽に背を向けていた。銀ちゃん、新八と呼んでも彼等はこ此方を振り向いてはくれない。そして新八が暗闇の奥へと消えて行った。銀時もだんだん神楽から遠ざかって行く。もう彼と離れるのは御免だと言わんばかりに銀時を追いかけるが中々距離は縮まらない。むしろ、どんどん離れていく。
「待ってヨ銀ちゃん!置いてかないで!私も連れて行ってヨ!!」
いくら叫んでも届かない。次第に自分の瞳が涙で霞んでいき、彼の姿も霧のように消えてしまった。
「銀ちゃぁああああああん!!」
「おい、チャイナ娘!」
神楽はゆっくりと目を開ける。その拍子に一筋の涙が頬を伝った。
「マヨ……?」
神楽はゆっくりと上半身を起こして辺りを見渡す。そこは見たことのない部屋で、ここは土方の部屋なのだと察する。
「お前大丈夫か?」
「大丈夫よ。お邪魔したわね」
そう言って立ち上がった神楽を土方は制した。
「お前、飯食ってねぇんだろ?」
神楽は土方の言葉に目を丸くする。確かにここ最近、飯が喉を通らなかった。そもそもご飯なんてそうそう手に入らなかった。
「うちにたくさんあるんだ。食ってけや」
「嫌よ。あんた達の世話になるなんて御免だわ」
「そのままだとまたぶっ倒れんぞ」
至極最もなことを言われグッと押し黙った神楽。そんな神楽の様子を見てフッと笑みを零した土方は、神楽に待ってろと言い残し部屋をあとにした。
次に部屋に土方が戻ってきた時は、お盆に大量のご飯を乗せてやってきた時だった。
「こ、こんなに食べていいの?」
「あぁ言っただろ、本当にたくさんあって困ってたんだ」
神楽は何日かぶりのご飯をがっつくように食した。
「あんた達、今何してるの?」
「近藤さんを取り返すために、それぞれ動いてる」
ーーーあぁ、そうか彼等の大将は…
「なんて顔してんだよ」
土方が神楽の額をデコぴんで弾く。
「てめぇらの大将だってまだ死んだって決まったわけじゃねぇんだろ」
「わかってるわ。銀ちゃんは絶対帰ってくるわよ。あのあんぽんたん、何処で何してるのかしら」
お腹いっぱいになった神楽は、最近見つけた空き家にそろそろ帰ろうと玄関の前に立つ。土方も神楽の後をついて来た。
「じゃあ、ありがとね。もう会うことはないと思うから」
「あぁ、気ぃつけろよ」
土方はそっと神楽の頭を撫でた。神楽は頭を撫でていた土方の手をガシッと掴んだ。いきなり手を掴まれた土方は目を丸くする。
神楽は土方の手を自分の頬に当てさせる。その土方の手の上から自分の手を重ねる。そして、涙で潤んだ瞳で土方を見上げた。
「あったかい。銀ちゃんみたい」
目を閉じて土方の手の温もりを噛み締めた。
「あんな腐れ天パと一緒にすんな」
そう言いながら、土方は神楽の目から流れ出た涙を重ねられている手の親指で拭った。
神楽は土方の手を離した。そして土方の腰に手を回して抱き着いた。そして彼の胸に頭を預ける。煙草の匂いが鼻腔を擽った。ドクッドクッと心音が聞こえる。
ーーー銀ちゃん…
神楽は土方の頬を両手で包んだ。目が会うのは、怠そうな鈍い光を放つ瞳じゃなくて、真っ黒な鋭い光を放つ瞳。
「なんのマネだ」
今まで黙りを決め込んでいた土方が漸く声発した。
「今だけ、今だけでいいから」
「ふざけんな。俺ァあいつじゃねぇ」
土方は神楽の手を引っぺがした。そして、神楽の後頭部に手を当ててグイッと引っ張った。あと数センチで唇がぶつかるところで土方は口を開く。
「そんなに誰かの温もりが欲しいんなら。あいつじゃなくて俺を見ろ」
「マヨッ、ゃ…っ」
土方は神楽の顎にそっと手を添えて口付けを落とした。初めは浅く、だんだんと角度を変えて深めに。
「ンっ……ゃッ…マヨッ…」
酸素を取り入れようと薄く口を開いた神楽。その瞬間を土方は見逃さず、神楽の薄く開いた口を割って舌を侵入させた。神楽の逃げまわる舌を捕らえて自分の舌と絡める。2人の混ざった唾液が神楽の顎を伝った。
いつの間にか神楽も土方の真っ黒な瞳に溺れていった。
ーーーーもしも銀時がいたならば、神楽の世界は何色だったのだろうか
*end*