クロスワールド

□第一章
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クロスワールド
〜蘇る鼓動

・登場人物

リュイ・メルビィー
身長 176p
体重 48s
年齢 19歳
ギルド《黒蜻蛉》の副団長を勤める女性。《バレットクイーン》の別名をもつデュアルガンナー。
落ち着いた性格とは裏腹に、攻撃的な一面もあり、気持ちが抑えきれないと大胆に行動する癖がある。
服装で少し性格が変わってしまう。


クナキ
身長 184p
体重 75s
年齢 19歳
名も無き一流剣術使いの青年。魔剣《リヴァイアサン》を探し求め一人旅をしている。
孤独で無愛想な性格をしているが、リュイと出会うことで少しづつ心を開く。
美人と色気に少し弱い。


シアム・レアード
身長 172p
体重 61s
年齢 23歳
ギルド《黒蜻蛉》の団長。かなり筋のない性格をしているが、特殊な武闘術をマスターしている。
表向きは薄いが中身にしっかりとした人柄を隠している。
かなりナンパ癖が悪い。



プロローグ
2つの顔を持つと説言されている世界。

そこは《魔物》と呼ばれる悪の兵と《人》が戦う。

全てが戦いではなく無論、生活をしている者達もいる。

そんな悪魔と人が住み交う世界を別名《デュアリス》。
−と呼ぶ。



1:優しい風
緊張が走る地面。

足の裏がひんやりと冷たく、出でくる吐息は白く空を染める。

徐々に凍てつく右手にぐっと力を入れ、深く深呼吸をする。

今は昼夜の存在しない森、というよりはポルゾン《光の石》が森中の木々を照らしている光る森。

その暖かい印象とは裏腹に、森は氷点下を下回るほど冷え切っている。

どうも毎晩降る雪と、風が運ぶ冷たい冷気のせいだと言う。

俺は寒さで朦朧とする意識をぐっと堪える。

視界はまるでクリスマスの街中のようにキラキラと輝き幻想的な空間を描いている。

一歩一歩踏みしめる度に、白い銀粉がふわふわとだだよう光景が実に綺麗に描写されている。

だが、そういった考えさえも有余が無くなっていた。

いわば白銀の世界に俺は頭から倒れた。

頬が冷たく感じる雪が何故か暖かく、実に優しく眠気を誘う。

徐々に遠のく意識と共に、俺は死の縁を歩き始めていた。


「……誰か…れている!…」


意識の向こうで紛れもなく救援の声が徐々に近づいて来る。

……助かったか。


「…大丈夫か!…大丈夫か!しっかりしろ!」


応答する元気を無くしている体を動かし、右手でわずかに合図を送った。

死ぬなよ。という言葉と共に俺の体を担ぐ。

俺はその救世主に体を預けた。



一 寒気が滞る時、寒さで熱をこじらしたらしい俺にひんやりとしたタオルが額に添えられた。

苦し紛れに意識を取り戻した体を、「動かないで」と手のひらで優しく止める。

どうやら助かったようだ。

焦点が定まらない視界を懸命に開き、看病をしてくれていたと見られる《人》にかすれた声で礼を言った。

「気にしないで」と明るく言うその影を今度はしっかりと捕らえた。

丹念に織り込まれた絹のようなさらりと長い白銀色の髪。

スラリと細い体は滑るようなラインを描き、少し小さめの顔には美しく輝く大きな翠色の瞳。

少し小ぶりですらっとしている愛らしい鼻に対して、キリッとしている眉が心を引き付かせる。

見とれること数分。

「あっ」と漏らした声に気づき、俺はわざとらしく顔をそらす。

そんな俺にクスクスと笑いかけると、その綺麗な形の桜色の唇を開いた。


「……具合はどう?」


そらしていた顔を戻すと、その美しい光景にもう一度目を合わす。

密かに浮かべている笑みが明るく、何よりとても愛らしい。


「…あっ、いや大丈夫だ…」


戸惑いながらその、彼女に笑みを返すと次は言葉に迷った。

不器用な俺に感づいたらしく、彼女はまたクスクスと笑い出した。

「ごめん」と言いながら顔を改めると、少し俺の体に覆っていた体を引っ込め、きょとんと座った。

起き上がろうとした俺を再度止め、再び彼女は唇を開いた。


「自己紹介が遅れました。リュイ・メルビィーと言います」


りゅい、その響きを刻むように心に聞き入れると迷わず唇を開く。


「クナキだ。…独りで旅をしている」


余分な言葉を付け加えてしまったが、リュイは心配な表情を浮かべクナキを見つめた。


「……旅を独りで…仲間とかはいなかったの?」


首を少し傾けそっとこちらを覗いてくる。

別に独り旅を好んでいたわけではなかったが、面倒な気がして今は話に会わせることにした。


「…ああ、話を信じる奴がいなくてな…」


「…話って?」


「……魔剣《リヴァイアサン》ってのを探している…」


ぽかんとしている彼女の顔を見るや俺は小さなため息を漏らし、いつぞやの記憶を感じていた。

きっと彼女も馬鹿にする…と、リュイは考え込むようにうつむくとそっと呟いた。


「……休暇もらおうかな」


確認しようと即座に言った。


「ん、何か言ったか?」


「え〜と、君の物探し…手伝ってもいい?」


予想外の展開に今度は俺がぽかんと大きな口を開けた。

まさか、情報が名前しかない得体のない物を探すと言う事の難しさを知らないのか?

「相当なバカかコイツ」という考えと裏腹に、何故、今日知り合ったばっかりの得体の知れない男に付いてくる勇気があるのか…。

しかも相手は女性… 。


「……な、何を急に言うかと思えば…」


「……だ、駄目かな?」


「…あのな、まず旅は楽じゃないぞ…」


と、彼女は瞬時に答える。


「旅は大好きだよ」


彼女の余裕の笑みに「うっ」と、つまる。

俺は即座に言葉を探し、口を開いた。


「ま、魔物相手に君を守る余裕は…」


瞬時に喉元を冷たい金属が押し付けられた。

銀色のフォルムが特徴の銃。

寝ている状態とは言え、早技に目がまるでついて行けなかった。


「…自分の身は守るから。で、駄目かな?」


正直困った。

どちらも得体の知れない《人》どうし、共に行動するには危険な事も無いことはない。

だが、その真剣な瞳には逆らえず…。


「……まあ、良いけど…帰りたくても帰れないぞ、途中で」


「うん。じゃあ、隊長に連絡してくる」


リュイはそう告げた後、すっと立ち上がり《外》へ走っていった。

俺は色々と変な気持ちだった。

一度、氷点下の森で死を覚悟して目覚めたら美人な彼女と出会い、共に旅をする羽目に…。


「まさか、魔物の罠か…」


などと呟いていたが、死にかけていた《人》を助けておいて、おいしい話で釣った挙げ句に、死のどん底に陥れるという面倒な小細工をする《魔物》が存在するだろうか?

つまらぬ推測をしている間に、彼女が帰って来た。


「何とか隊長にすがったら、クナキ君の旅について行っても良いって許してくれたよ」


アホか…。

など思いながら、素直に頷いた。


「クナキ君の体調が治り次第だって、それまでは私が君の面倒を看るから、よろしく!」


愛らしい笑みを一つ浮かべると、彼女はちょこんと座った。


−あの氷点下の森で俺を助けた《人》のこと。

その《人》が森付近で《魔物》を調査していた団体の一員であること。

その団体が大規模な《ギルド》であったこと。

全てが偶然で驚いたが、何より驚いたことはリュイがその《ギルド》の副団長様であること。

それを聞いた時はあの早技が理解できた。

それにしても彼女からは威圧感一つさえない。

唯一物騒に輝くのは、スカートから露出した綺麗な曲線の脹ら脛に巻かれたガンホルダー。

それにセットされた双銃。

片方は銀のフォルムが目立つやや短いフレームに対して大口怪型。

片方は漆黒のフォルムが特徴の長いフレームの小口型。

どちらも磨き込まれ、その、肌の輝きに劣らないほどだった。

あんまりジロジロと見てしまっていたのでリュイは若干ブスッとした表情をした。


「…そんなに女の子がハンドガンを一丁、二丁持つのが珍しい?」


「…いや、ただ格好いい銃だな〜って…」


「ふ〜ん。なんか怪しい…」


しばらく疑いの眼差しで睨んでいたが、急に表情を改めると唇をそっと開いた。


「……明日には出発できるんだよね?」


「ああ、だいぶ体調も良くなってきたからな…」


次の言葉を探している間、しばらく沈黙の時が流れた。

ふと、1人の男性がテントの中へ入ってきた。

透き通った蒼色の瞳。

全身黒ずくめで嫌に殺気を放っているが、後ろかぶりのサンバイザーがどうも雰囲気をぶち壊す。

…バカか?コイツ。

男はその波に乗るかのようにクスッと笑うと、ニコニコと手を振った。


「…だ、団長!」


即座にリュイが驚いた声で言った。

こ、コイツが団長!?


「やあ。いつ見ても綺麗だね〜リュイくん♪」


若干引き気味のリュイに挨拶をすると、クルリと俺の方を向きとびきりの笑顔で…。


「ギルド《黒蜻蛉》の団長シアムです。…シアむっちって呼んでね♪」


…ぶっ、ぶっ潰す!!

危うく殴るところだったが、陽気な団長は急に表情を変えた。


「…君がクナキくんだね。僕の部下が世話になるようだけど、うん良いよ、って彼女に言ったわけじゃないんだ…」


ごめん。という表情で目の前で両手を合わすリュイから嫌な感じが悟った。



「彼女には使命を与えたんだよ。それも大事な…。《魔物》の根源ベヒモスの討伐…」


べひもす…。

その響きは飽きるほどに聞いた。

この世界に《魔物》が居なくなるには、まして《人》が平和に暮らせるには《魔物》の生みの親、ベヒモスを倒すしかない…と。

しかし、俺には一寸も関係の無いことであった。

俺のような《魔物》を狩りながら旅をする身にとって、確かに《魔物》は旅以上に厄介な相手ではあるが、それを己の成長源とする者は数多い。

まして俺のように武器を探し求めながら強くなり、それに見合う力を持つことを好んで生きているとしたら《魔物の消滅》は二さん歩ばかり譲れないものでもある。

それをこの男は彼女1人に任すのだから…。


「あ、そうだ。君にも頼みたいことが一つだけある。彼女と一緒に《魔獣ベヒモス》の討伐をね…」


「な、なんで俺が!」


体を安静に。というリュイの言葉を忘れ、勢いよく寝た体を起こした。


「いや〜、実はね…君の探している《魔剣リヴァイアサン》はベヒモスが所持しているということだけは確認しているんだよね…」


まったくの初耳だった。


「な、何でそんなことが確認できたんだ?!魔剣自体が伝説で形すら確認されてないんだぞ!」


「それが形があったんだよね…この森の遺跡に…」


シアムは袖から映像結晶と呼ばれる物を出した。

何らかの鉱物が一時の光を吸収し、衝撃によって映写機のように映し出すという。

それを机の角で軽く叩くとそっと机の上に置いた。

ぱぁ、という効果音と共に木製の机に置かれた結晶が光り出した。

茶色のテントのナイロン質にうっすらと何かの光景が写り出す。

俺はそれを確認すべく身を乗り出した。

かなり乱れた映像ではあるが巨大な石版に描かれた一つの剣…。

奇怪な絵超で良く形が掴めない。


「シアム。これは確かにその剣なのか?」


「その石版に《古代シャマ語》で確かに《天空ヲ切リ裂ク魔剣 水神龍剣(リヴァイアサン)》って描かれていたよ」


「…それはわかった。で、《ベヒモス》が持っていたということはどうやって確認したんだ?」


「その遺跡に《ベヒモスの毛》が落ちていた…」


シアムはコート内ポケットからすっと、小瓶を出した。

中には紫色の毛糸…。

毛と言いづらいほどかなり太い。

怪しすぎる毛に向かって一言。


「…細工とかしてないよな?」


「…それもそれで面白そうだね♪…まあ、君達の出発は明日として今日はゆっくり過ごしておいて…」


急に気の抜けた団長はへらりとテントの出口に向かった。

と、クルリと振り返ったと思うと満面の笑みで…。


「…クナキ君。リュイくんに変なことしたらゴミクズにするよ♪」


「するか!」


近くにあったプラスチック製のコップを団長目掛けて投げる。

残念ながらいい感じで右に外れた。

きゃ〜。とふざけた調子で逃げるシアムにため息を吐くと、ふと、リュイの方を見た。


「…大変だな。団長があれだと…」


リュイも気を抜くようにため息をした。


「…あれでも団長だから大変なんだよね…」


過ぎ去った嵐にしばらくの沈黙が流れた。
 

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