クロスワールド
□第一章
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3:副騎士団さま
森の夜は早く、クナキ達はキャンプを張った。
キャンプと言っても火を起こしたり、水を汲みに行ったりしなくてもクナキの万全の準備により、四次元的圧縮の結晶が全てやってくれた。
四次元的圧縮結晶とはこの世界に存在する貴重で特殊な魔力の結晶体で、決められた物質を変形、増幅、圧縮できる。
寝床となると結晶内に入り、魔物や天災をも一切受け付けない頑丈さの結晶の中でぐっすり眠る事ができる。
ただ一つ問題が…。
「…え、寝るところが一つ…」
「一人で旅をしていたから二人分の寝床はいらないだろ?」
少し戸惑っているリュイにクナキはため息を吐くと言った。
「……俺が外で寝るからリュイは結晶の中で…」
「それは駄目だよ!……良いよ、私はクナキくんの隣で寝ても…」
想像もしない事を言われ、クナキは赤面ながら迷ったが。
「まあ、リュイが気にしないなら…」
保存の効く食料を晩飯に食べ終えるとリュイは先にお風呂機能が搭載された結晶に入った。
結晶の弱点は下手に透けているので黒い布で覆ってある。
クナキはリュイがお風呂からあがるのを待ちながら剣の手入れをしていた。
手入れをこまめにしているので錆たりはしないが、生活面を重視してしまった事を改めて後悔した。
隣ではリュイの磨き上げられた双銃が置かれている。
自分のご老体の剣とは取るに足らない輝きを放っている。
自分も格好いいのが欲しいなと考えているとふと、あの疑問がよぎった。
「…何でリュイはついて来たんだろう…」
一人疑問を抱きながらふと、朝に出会った小熊の事を思い出した。
「…そう言えば、何処に行ったんだ彼奴…」
リュイがお風呂からあがってきたら聞こうと思っていた時…
「クナキくん!ちょっと来て!」
黒い布が覆った結晶の中からリュイの声が響いた。
クナキは剣をしまうと急いで駆け寄った。
「リュイ、どうした!」
「…私、着る服一着しか無かったの忘れて洗濯しちゃった…」
なんだ…。
と、力を抜くとクナキは言った。
「……ちょっと待ってろ」
クナキはアイテムポーチの中からずっと着なかった縁の赤い黒いバスローブを取り出した。
「…一応、着れそうなのはある」
「じゃあ…ちょっとだけ開けるから…入れて」
リュイはそう言うと、結晶のドアを少しだけ開けた。
白い湯気がもくもくと出てきた。
ほら。と、クナキはバスローブを差し込むとゆっくりと閉めた。
しばらく木の長椅子に座って待っているとリュイが結晶から出てきた。
少しローブが小さかったのか、脹ら脛すれすれの状態である。
「…ちょっと、小さいかな?」
恥ずかしそうに首をすくめるとクナキの隣に座った。
綺麗に伸ばされた髪から湯気がたち、乳白色の肌は少しピンクに染まっている。
リュイとは身分が違い、歳は同じ19なのでかなりの抵抗があるが、スタイルとルックスが完璧な所が以上に色気が増し、その上見出された滑らかな脚ばかりに目が行ってしまう。
そんな中、半分緊張しながらクナキは言った。
「…そ、そう言えば、リュイが助けてくれた時に俺の側にいた小熊はどうなったか知ってるか?」
「ごめん。クナキくんの看病に必死だったから…いつの間にか居なくなってて…」
「…そうか」
クナキは次に言う事が無く、夜空を眺めていると少し嬉しそうにリュイが言った。
「…ありがとう。色々準備してもらって…迷惑かけて…」
急に静まり返ったリュイにクナキは首を横に振った。
「謝るのは俺の方だ。リュイの気持ちに答えられなくて…ごめん」
「そ、それは私が、君のことを…何も分かって無かったせいだよ…」
言葉を探したが見つからず、しばらくの間、沈黙が流れた。
リュイは冷えてきた体に身震いをすると、そっと体を縮めた。
「リュイ、寒いか?…先に寝てろ。俺は風呂に入るから…」
リュイはこくっとうなずくと、お先に。と寝床へ向かった。
−クナキは1日の疲れを流すように傷口を労りながらシャワーをあびると、赤いガウンに着替え、そっと結晶の外に出た。
この《ホワイトウォール》は朝は極度に冷え込むが、夜は氷点下に達しない程の気温なので寝るのには困ることはない。
一応、クナキが目の前に立っている赤い布が覆った結晶、いわゆる寝床の中は一定温度、二十五度で固定されている空間である。
クナキはふと、寝床へのドアノブに手を掛けるのを止めた。
よくよく考えてみると2人っきりで寝るのは間違っているような気がしてきた。
たとえ、相手が良いよと言っていても寝るのに値して事故があるに違いない。
だが、外で寝ればきっとリュイに怒られるだろう。
他にいくつか考えたが、とりあえず今日の傷を癒やすことを優先に考え、中で寝ることを決意した。