クロスワールド

□第一章
1ページ/2ページ

5:繋がる思い
疲れきった体を癒すような感覚。

真っ白な視界にぽつりと佇む。

俺はどうやら夢の中のようだ。

辺りは木々も無く、空は無限に続いた白い空間が広がっている。

そんな中に青い筋が一つだけ目の前にある。

無意識にそれをつかむと弾けるように目の前に散乱した。

粉雪のようにキラキラと青く輝く。

俺はそれを手のひらに乗せるとそっと握りしめた。

願うように…。



夢から覚めると同時に、優しい香りが全身を包んだ。

いつもとは違った安らいだリズムが自分の体を通してくる。

好ましい感触に全身が包まれているような感覚。

それを夢じゃないと判断するのに数分、俺は極度の緊張感で満ちた。

辺りは見覚えのない草原。

どうやらあの大森林を抜けたらしい。


超至近距離のリュイは俺を抱き抱えながら心配そうにこちらを見つめてくる。


「クナキくん…大丈夫?だよね…」


「ああ…。それより…リュイ。…この体制どうにかならないか…」


リュイは「あっ」と、声を漏らすと俺の体を支えながらそっと俺の頭を膝に乗せた。

何故はわからないが体が妙に動かず、俺はとてつもない疲労感を感じていた。

まるで一週間の疲れがいっきに襲ったような。

恥じらいながらもリュイの膝枕にお世話になりながら俺はふと、思い出した。


「そういえばリュイ。盗賊にやられてからの記憶が無いんだが…」


リュイは少し悲しそうな顔をすると、すっかり黙りこんでしまった。


「…リュイ。何か知ってるのか?」


俺は動かない体を無理やり動かしながら体を起こし、リュイの肩に両手を乗せるとその翠色の瞳を見つめた。

リュイは口元を開いては閉じてと戸惑うように動かすと、俺から目をそらした。

俺はため息を一つすると、そっとリュイを抱きしめて言った。


「リュイ、教えてくれ。…何があったのかを…」


リュイはしばらく黙り込んでいたが、決心をしたように「うん」と言うとそっと唇を開いた。


「…ずっと前から君に黙っていた事があったの…」


少しずつ開かれるその唇は微かに震えていた。


「…私が君について来たのは一緒に旅がしたかっただけじゃないの…。私は君と出会う前からあなたを探していたの…」


俺は内心驚きで隠せなかったが、そのまま黙って聞いた。


「…き、君の探していた魔剣リヴァイアサンの事だけど、本当はベヒモスは持ってないの…」


「…それはどういうことだ?」


リュイは震える唇でクナキくん、ごめん。と言うと一筋の涙を流した。

それに感づくと俺は続きを黙って聞いた。


「…本当は魔剣自体が存在しない、…魔剣は君自身、君にはリヴァイアサンが宿っているの…」


「…」


流石の俺でも言葉を失った。

魔剣自体が嘘!?

そんな馬鹿な…。

しかもそれが俺自身!?

訳が分からない頭の状態でリュイは続けて言った。


「でね…リヴァイアサンには特別な力があるの…主であるベヒモスの妖精を守る力…。…団長が言ってたんだけど、ベヒモスの妖精が寄生したら成長の間は必ずリヴィアサンが守りに来るって…」


「リュイ…嘘だろ?」


リュイは首を横に振ると俺の背に腕を回し、泣きながら強く抱きしめた。


「……っだからね!君がリヴィアサンで、私はベヒモスの妖精なの!…私は、…生きてちゃいけないっ!」


流れる涙と共に伝わるリュイの鼓動が悲しく響き、俺は理解仕切れない頭の中でそっと言った。


「……リュイ、教えてくれてありがとう…。だからって何も泣く事はないだろ…、俺はリュイを守る…それは変わらない…きっと運命は変えられる筈だ…」


俺は泣き崩れるリュイを強く抱きしめた。

リュイは必死に頷くとその胸の中で泣き続けた。


「…ありがとう。クナキくん…」


俺はその時に覚悟を決めた。



俺は覇王の剣の事は諦め、ギルド《黒蜻蛉》の本拠地に向かった。

ギルドの本拠地はこの《デュアリス》の世界の唯一2つの国の片方《トリティア王国》にあり、国家直属の任命ギルドでもある。

俺は久しぶりの街並みに少し心を落ち着かせていたが、リュイは相変わらず俯いて元気が無かった。


「…リュイ、心配なのは分かる。でも、何もベヒモスの妖精に寄生された時と同じ症状が出たからって…」


「…でも、君は私をリヴァイアサンとして守ってくれた…」


「…だからって、俺がリヴィアサンだっていう確実な証拠が無いだろ?」



俺は何とか励まそうとしたが言葉が見つからず、リュイは表情一つも変えない。

ヤケになった俺はリュイの肩に腕を回した。


「…リュイ、そのことは後で考えろ。…行きつけの店があるんだ。本部に行く前に寄って行くか?」


俯いた顔をようやく上げたリュイは「ありがとう」と言うと俺の肩に体を寄せた。




行きつけの店は住宅地の隅にあり、レンガ造りの小さな飲み屋で密かにオシャレな空気を漂わせていた。

俺はいつものように小さなドアを開けると何も言わずに入った。


「いらっしゃーい!…おう!クナキじゃねぇか!」


いつもながらの元気のある声が店内に響いた。

飲み屋の亭主、というよりバーテンダーのようなスーツを着こなしたツンツン頭の茶髪の青年。

歳は近くはないが、彼の元には情報収集として良く立ち寄っている。


「1ヶ月も姿見せねぇから心配……クナキ…その子は?」


明るい亭主は思いつめた顔のリュイを見つめた。


「ああ、…まあ、気にするな」


「…なんだよそれ」


俺はリュイを飲み屋らしくないフカフカなソファーに座らすと、元気にカクテルボトルを振る飲み屋の亭主に言った。


「サルザ…いっそのことバーテンダーになったらどうなんだ?」



飲み屋の亭主はカクテルボトルをカウンターに叩きつけると言った。


「俺は悪魔で居酒屋の店長だ!バーテンダーなんか洒落たことなんかできるか!」


「…そうか、ならいい」


俺は呆れたようにボトルを手に取ると、水をワイングラスに注いだ。


「…リュイ。少し落ち着こう…」


「…うん」


俺はワイングラスをリュイに手渡すと肩に優しく腕を回した。


「し〜っかしビックリだよな〜。クナキが女の子を連れてくるとか…。いつもならどんな良い子に誘われてもばっす!ばっす!断るのにな〜」


サルザは食器を丁寧に拭きながら念仏のようにぐちぐち言い始めた。


「…そういえばサルザ。お前の持ち出した《虹色結晶》の話なんだが…」


俺はポケットから飴玉ぐらいの小さな結晶を出した。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ