クロスワールド
□第二章
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1:陽気な天気
「今日もいい天気だね〜」っと言いたくなる様な昼間。
お日様に向かって大きなあくびを送ると、それを拒否するかの様にもくもくと雲に隠れてしまった。
「…そんなに照れなくても良いよ♪」
隠れたお日様に向かって微笑んだ。
と、そんなくつろぎの時間に物音が一つ。
廊下を走る音と共に、1人の男が部屋に入ってきた。
ギルドの黒衣に身を包んだ男。
「…シアム団長!国からの招待状が届いております!」
「…なんだい?国も暇だね〜。ギルドを招待するとか…」
部下にそこに置いといてと、机を指差すと大きく伸びをした。
部下は「はっ!」と言うと焦げ茶色の印が押された白い封筒を机に置いた。
失礼しました!と元気良く出て行く部下にパタパタとご苦労様の意味の服の袖を振った。
今日も退屈な日が始まる…。
そう思っていられたのは電話がかかって来るまでだった。
けたたましいベル音が部屋に響き渡った。
机の受話器を取ると耳に当てた。
「…はーい。ギルド《黒蜻蛉》の団長ですけど何か?」
「…あ、団長。…リュイです…」
リュイくんか〜♪とテンションを上げると受話器に向かって喋り出した。
「久しぶりだね♪…で、体の具合とかは大丈夫?どこも怪我してない?クナキ君に変なことされてない?クナキく…」
「…あの、団長…」
立て続けに喋ったが、リュイの声色を聞いて急に黙った。
「…その様子だと、大丈夫じゃないみたいだね…」
どうしたんだい?とリュイに言うと受話器に耳を傾けた。
「…えっと、今から本部に戻ろうと思います。…少し遅くなると思います…」
ため息を吐くと受話器に向かって話し始めた。
「…リュイくん。…そんな事より、言いたい事…話しな…」
はい。と言う返事に続いてゆっくりとリュイは喋り始めた。
「…団長。…私、…ベヒモスの妖精でした。…たぶんクナキくんもリヴァイアサンです…」
「やっぱり…」と思うと、いつも通りに言った。
「…そっか、とりあえず帰っておいで♪…話はそれからで♪」
「わかりました」とリュイは言うと電話を切った。
耳元でなる不在音が悲しく響いた。
「…リュイくんがね…」
受話器をそっと元に戻すと、曇った空を見つめた。
悲しい気持ちに少し視界が曇っていた。
「あ〜駄目だ!」と意味不明の伸びをすると、机の封筒を手に取ると真っ二つに破り、中から引き裂かれた手紙を取り出した。
それを広げると、ゆっくりと読み始めた。
「…ギルド《黒蜻蛉》へ。こんにちの朝明けに、臨時会議を行う。なお、団長及び副団長、後一名連れてくること。もし、欠席…」
上半分の紙を投げ捨てると下半分を読まずに捨てた。
「…リュイくんとクナキ君でいっか…」
捨て去った紙切れが空しく床に散った。
日が沈んだ頃、部下が急に部屋に入ってきた。
その部下からリュイくん達が帰って来たと情報が届いた時、僕は跳ねるようにエントラスへと向かった。
広々としたエントラスに出ると人影が2人。
僕は無愛想な顔の青年を無視するように、ウエイタードレスに身を包んだ彼女に飛びより、その華奢な手を取った。
「お帰り、リュイくん。可愛いね♪似合ってるよ♪」
「あ、えっと…」と戸惑うリュイくんを笑顔で見つめていると、隣の怖いお兄さんが睨んできた。
降参します。と言うと様にリュイくんから手を離すと両手を上げた。
「…シアム。…話があってきた」
「まあまあ、せっかく来たんだし。…丁度ディナーの時間だから食べながらでも♪」
2人を食事会場の扉に招くと、その扉をゆっくりと開けた。
開けたと同時に漂う匂い。
テーブルに並べられた沢山の珍しい料理。
僕には当たり前の光景だったが、2人には違う光景に見えているらしく、クナキ君は初めての光景に感心に浸り、リュイくんは懐かしさに涙を拭いている。
「どうぞ♪」と2人を先に入れると扉を閉め、席に座らせた。
ギルドの部下達も揃ったのを確認すると、いつものように僕は言った。
「では、皆さん。久しぶりにリュイくんが帰って来たので、今夜は楽しく行こうね♪」
両手を合わせて頂きますを言うと、いつもの様に食事会場は賑やかになった。
まだ泣いているリュイくんをクナキ君は、気にかけるように料理を口に運んでは、「これ上手いぞ」と声をかけていた。
僕はそれをにこやかに見つめながら大好物のエビフライをかじっていたものだから、目を合わせたクナキ君が仰け反るように引いた。
僕はクナキ君に手を拭ると、二本目のエビフライを口に運んだ。
ぱりっとした食感とともに、クナキ君が励まして笑顔になるリュイくんの顔を見て満足した。
…クナキ君優しいね♪
三本目のエビフライを口に運びながらリュイくんの事について考えていた。
(ベヒモスの妖精ね…。なかなか面倒だね。何か手がかりがあれば…)
四本目のエビフライを口にほうばっていると、反対側の席のリュイくんが心配そうに聞いてきた。
「…団長、どうかしました?…難しい顔をしてますけど…」
「…ごめんごめん。今日は楽しく行きたかったのにね…。やっぱり隠せないね…」
僕は純金制の銀のフォークをナプキンに置くと、ため息に続くように話した。
「…リュイくんの事だけど、ベヒモスの妖精について何か手がかりが掴めないかって…」
それを聞いたクナキ君は目の色を変えたように僕に喋りかけた。
「それを教える為と、説教をする為にあんたに会いに来た…」
「わざわざご苦労様です」と言う様に僕は頭をかく仕草をすると再びフォークを手に取り、五本目のエビフライを口に運んだ。
「…とりあえず、今は食べてよ。その話は後で…ね」
僕はクナキ君にウインクを送るとと、当然ながら逃げるように引かれた。
ふわふわなパンを美味しそうにかじるリュイくんを笑顔で見つめながら、僕はいつもの様にエビフライを食べながら食事を終えた。
夕食後、僕の部屋に2人を連れ出すと、さて。とクナキ君を見つめた。
少し落ち着いたような顔の彼は飴玉くらいの大きさの結晶を取り出した。
僕は勿論それが《虹色結晶》という事は知っている。
「…この結晶にはベヒモスの妖精の進行を食い止める能力がある。…確証と安全の保証はない」
物珍しくそれをクナキ君からもらうと眺めた。
「…いや、間違いない。これは僕が探していた物だ。…周りでは《虹色結晶》とか呼ばれているけど、医学上では《セイレーンの瞳》と呼ばれているんだ」
僕はどこにあったかな〜と、本棚からお目当ての本を探し始めた。
「…団長は武闘術の他に治癒術もマスターしているんだよ」
クナキ君に教える様にリュイくんは言った。
「もっと褒めて♪」と言うように手を拭ると、相変わらずのクナキ君は無愛想な顔をしていた。
少しいじってやろうと本探しを止め、クナキ君に笑顔で…。
「…ちなみに、君が凍傷で死にかけてた時と、ゴブリンに刺されて死にかけてた時は僕が治したんだから♪…リュイくんは治癒術は使えないからね♪」
リュイくんは恥ずかしそうに俯いた。
思った通りにクナキ君は一つの夢が壊れた様に唖然としている。
「…いや〜クナキ君みたいな頑固者は美人の色気に弱いかと♪」
リュイくんは恥ずかしそうに明後日の方を向いた。
僕はクナキ君におちょくるようにウインクをするとクナキ君は顔色を変え、厚手の本を投げ飛ばしてきた。
「ひゃ〜♪」とそれを避けると僕は念を放つクナキ君に「落ち着いて」と、土下座した。
「…で、シアム。…どうにかなりそうなのか?」
僕はクナキ君が投げた本を拾うと、「これだこれ♪」と広げ、探していたページを見つけた。
「…このページによると《セイレーンの涙》は魔物を消滅する浄化作用がある。…たぶん僕には扱える範囲の物だからリュイくんは直ぐに良くなると思うよ♪」
僕はしばらく目をパチクリしているリュイくんに笑顔を送った。
と、やっと意味を理解したのかリュイくんは泣き崩れ様に涙を流し始めた。
支える様にクナキ君は泣き崩れるリュイくんを優しく抱いた。
「…私、助かるんだね…」
「…良かったな、リュイ」
僕は微笑ましくそれを見ていると、忘れていた事を思い出した。
「あ、そういえば…。後一時間前後で国からの呼び出しで会議に出席しないとね…。勿論、リュイくんとクナキ君もね♪」
「…なんで俺が…」
クナキ君はリュイくんを抱えながら睨んできた。
「君、面白いから♪」
「…意味がわからない…」
僕は呆れた顔をするクナキ君をスルーすると涙を拭くリュイくんに言った。
「…治療するには少し時間がかかるから、…会議が終わったらね♪」
リュイくんは、「はい」と頷くとクナキ君から離れ、クナキ君が渡したハンカチで涙を拭いた。
「じゃあ行きましょうか、皆さん♪楽しい会議へ♪」
「…俺もかよ…」
僕は勢い良く、扉を開いた。