クロスワールド

□第二章
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・ 登場人物
リュイ・メルビィー
身長 177p
体重 47s
年齢 20歳
魔術最先端国《くくのき》に自分の治療の為に、スカイシップに乗って一人旅だった。
婚約者のクナキに対しては積極的に愛情を注ぎ、何よりも彼の優しい笑顔が大好き。
ただ今、花嫁修行中。
近日で二十回目の誕生日を向かえる。

クナキ
身長 184p
体重 75s
年齢 19歳
体内に《魔剣リヴァイアサン》を宿す青年。
その力は星をも砕く力を秘めている。
婚約者であるリュイを支えに、自分の生きる意味を見つける。
彼女の影響で少しは明るくなったが、未だに友達は少ない。
婚約者になってもまだ、リュイの積極的な行動に抵抗を感じている。
唯一の友達であるサルザが亭主を勤める店の常連客。

シアム・レアード
身長 172p
体重 61s
年齢 23歳
副団長のリュイが《くくのき》に旅立ってから、かつての元気を無くした団長。
ギルドの事を放置して、謎の旅に出るが…。
ナンパ癖の悪さと裏腹に、リュイの事を我が娘の様に可愛がっている一面もある。
未だに、クナキとリュイの婚姻を認めていない。
一応、独身ではない。

サルザ・ホルスァー
身長 182p
体重 71s
年齢 24歳
《トリティア王国》にて酒場を営む青年。
妹のセリアと親友のクナキに押され、今更にてバーテンダーとしての道を認める。
昔の戦争で見た光景の後遺症で戦いは大の苦手だが、情報収集力にいたっては他に負けを劣らない。妹のセリアに対しては兄馬鹿以上の愛情を持ち、ただ今、セリアに少し興味を持たれているクナキに焼き餅を焼いている。

セリア・ホルスァー
身長 162p
体重 46s
年齢 16歳
サルザの妹。
今では、成り行き上と言うより兄に無理やり仕事場を与えられている。
落ち着きのない兄に対して、物事を慎重に考える。
唯一、明るい所はそっくり。
先ゆく兄を尊敬しており、毎日の三食は彼女が作っている。
真面目に学生生活をしていて、弓道部のキャプテンでもある。
リュイとは結構仲がいい。

じんりゅう(じん)
身長 188p
体重 76s
年齢 29歳
魔術最先端国《くくのき》の武力派の若頭。
国の武力をすべて仕切り、国の長《りゅうまつ》とは夫婦の関係である。
真面目な性格で、曲がった考えを嫌っている。
大きな大剣さえ、片手で振り回す程の剛の持ち主。

りゅうまつ(まつ)
身長 178p
体重 46s
年齢 28歳
《くくのき》のすべてを仕切る長。
年齢を思わせないような完璧な美形の持ち主であり、遠距離錬成術というナイフを使った特殊な《魔術》をマスターしている。
リュイが十歳の時、彼女がリュイの教育をしていた。
《じんりゅう》とは夫婦の関係だが、表向きにはあまり、深い関係を出さない。
かなりノー天気な性格をしており、彼女が暴走すると誰も止められない。


4:旅立つ先には
えっと、風に吹かれてゆっくりと揺れる船内には静かな足音だけが響いていた。

私は眠れない夜の暇を潰そうと、船内をふらついていた。

オレンジ色の明るい照明が廊下を照らし、私を招くように奥まで綺麗に並んでいた。

私は少しばかり元気になると早足で歩き始めた。

一時間の自由時間を《じんりゅう》という男性に許された私はその足で商店市へと向かっていた。

ギルドの紋章《黒蜻蛉》の刺繍が入った小さなポーチを背中に揺らしながら、私は明日で二十歳になろうとしていた。


「…私も、大人になるんだね…」


余り実感は無かったけど、急に大人びてきた体には間違えは無かった。

少し前までは苦しくなかった胸周りが苦しくなり、お腹周りがすっきりとしまり、未だに続く成長期が私には少し嬉しかった。


「…私、クナキくん好みの女性になれてるかな…」


私はそっと胸に手を当てながら、クナキくんの優しい笑顔を浮かべた。


「……愛は体じゃないよね!…きっと。…私なら上手くやっていける♪」



私は自分を励ましていたけど、無意識にトイレの鏡の前に立っていた。

鏡に映る私の顔はどこか元気が無く、不安で一杯だった。


「…クナキくんは一度も私の事…可愛いねって言ってくれなかったなぁ…。…やっぱり、クナキくんの好みじゃ無いのかな…?」


寂しそうに映る私の顔に目を伏せ、トイレを出ると、私は商店市へと向かった。


「…クナキくんはきっと、恥ずかしくて言えないんだよ♪」


私は、「うん。そうだよきっと…」と、自分を納得させると長い廊下を進んだ。

私はお目当ての小さな商店市にたどり着くと、気になっていた藍色の上品な着物に目をやった。

菊の花が綺麗に咲き、流れるような模様が私の心を引きつけた。

ふと、私は値札を見るとその額が半端じゃないのを知った。


「…百万ガルか…。今の小遣いじゃ足りなさすぎだな…」


ガルとは、この《デュアリス》の世界で使用されている通貨。

百万ガルは私の小遣いの1年分に値する額だった。

国家直属ギルドなので一般人より収入は数十倍以上とあるが、そのほとんどはギルドの活動費に行ってしまい、自分の趣味や美容に費やす小遣いは少し心持たないくらいである。

私は手元に三十万ガルしかない事に諦め、小物屋にある綺麗な簪を見つめた。

白銀に輝く簪には、綺麗なぼたんの造花が飾られていた。


「…五千ガルなら買えるかな…?」


私は値札を見て頷くと、思い切ってその簪を手に取った。

眠そうな店員に渡し、綺麗に布に包まれたそれを私は大切にポーチに入れた。

そろそろ帰らないと怒られるな…。

と、私は宝石店に綺麗に並べられた指輪に目をやった。

大きな宝石達が見つめるように輝いている。

…クナキくん、忘れてないと良いけどな…。

私は少し俯くと、「戻ろっか…♪」と商店市を後にした。





私の部屋の前にたどり着くと、あの男性が一人、立っていた。

男性は私の方を向くと、そのマスクの下から言った。


「……もう遅い、部屋に入って寝る時間だ。…明日の条約交渉会議では休む暇も無い。…今日の内にしっかりと休んでおけ…」


私は頷くと、その男性の目の前を通るように部屋へ入ろうとした。


「…クナキという青年からあなたへの差し入れだ。…安心しろ、中身は見ていない」


男性は私に渡すように差し出した。

綺麗に可愛い布で包まれた箱。

私はお辞儀をして受け取ると、その箱を抱えて部屋に入った。

机に箱を置き、しばらくじっと眺めていた。


「…なんだろ?…クナキくんからのプレゼントって初めてだから…♪」


私はドキドキしながら布を取った。

綺麗に磨かれた可愛らしい黒の木箱が顔を出すと、私の胸の弾みはいっそう強くなった。

恐る恐る開けると、そこには小さなホールケーキと手紙があった。

私は手紙を手に取ると、小さな声で読み始めた。


「リュイへ。一緒に祝えなくてごめん。明日がリュイの誕生日だったのは知っていたけど、流石に俺は行けそうにない。代わりにしては小さいけど、サルザと一緒に作ったケーキを送ったから…。明日は食べている暇は無いだろ?一応、サルザの考案で低脂肪で美容にも良い成分が入ってるらしい…。上手くは言えないけど、…リュイ。俺はリュイの優しい笑顔が好きだから。旅先でも笑顔でいてくれよ。俺の為に…」


「…く、クナキ…くん…。…ありがとう…」


私は嬉しさに涙を溢れ流すと、その手紙に軽く口付けをした。

クナキくんに届くように優しく。

「…私、クナキくんの為に笑顔でいるね…ずっと。…私が帰ったら……毎日、笑顔で君にキスしてあげるから…♪」


私は泣きながらホールケーキにフォークを刺すと、ゆっくりと口に運んだ。


上品な甘さの生クリームが口に広がった。


「…クナキくん。…ケーキ美味しいよ…♪」


嬉しさで溢れる涙を拭きながら、私は少しずつケーキを口に運んだ。

丁度その頃、私の腕時計が深夜0時を指していた。




私が乗るスカイシップが《くくのき》に到着した頃。

まだ、眠り足りない私はフカフカな布団の中で丸くなっていた。

部屋の入り口から、「入るぞ」と低い声が聞こえると、障子がゆっくりと開いた音がした。


「…早く起きて準備を済ませろ。…あまり時間はない」


私は寝ぼけた状態で布団から出ると、あの男性は素早く部屋を出て行った。


ふと、私は下に目をやると、寝相が悪いせいか、上半身だけ寝間着がはだけて下着だけになっていた。


「…あの《じんりゅう》って人、…意外と恥ずかしがり屋なのかな…?」


私は新しい発見に少し明るくなると、寝間着を脱ぎ、綺麗に洗濯されたギルドの黒衣に着替え、可愛い手鏡で身だしなみを整えると部屋を出た。

廊下にはあの男性が立っていた。


「…準備はできたか。…今から国の長に会いに行く。…無礼の無いように…」


男性はそう言うと、すたすたと廊下を歩き始めた。

私はその男性の後を必死に追った。


船を出ると、私の目には素敵な光景が飛び込んできた。

赤い番傘のような形の屋根の高い建物が建ち並び、その間に走る道は道行く人で埋まっている。

町自体が和の優しい雰囲気を放ち、活気にあふれていた。

私はしばらくそれに見とれていた。


「…この国は道が入り組んでいる。…迷わない様について来い」


マスクの男性は私を引き連れると、人で溢れる町に足を踏み入れていった。



「…お帰りなさいませ!じんりゅう様!…皆、道をあけろ!」


この町の門番と見られる男性が声を張り上げると、人で溢れていた道に一本の道が出来た。


「…仕事、ご苦労」


《じんりゅう》と呼ばれる男性は門番の男にそう言うと、開けられた道を歩き始めた。

私は必死について行った。


「…あれが《トリティア王国》からの使者か?」


私は耳に届いてくる野次と道を開ける人々の痛い目線を無視すると、先進む男性の後を追った。


「…あんな可愛い子が使者?」


「…《トリティア王国》の連中も色仕掛けとは、腐ってるな!」


徐々に私の側でエスカレートしていく野次は止まることを知らないように共鳴していった。


「…どうせあの子の中にも腐った血が流れているのよ!」


「…俺達との関係も知らずにのこのこと出て来やがって!…これでもくらえ!」


急に道を開ける列から身を乗り出してきた男が、私に向かって道端の石を投げてきた。

丸腰だった私は、とっさの事にただ目を伏せることしかできなかった。

ガッ!と物を打ちつける音が響いた。


私は恐る恐る目を開けると、目の前にはあの男性が立っていた。

野次が投げた石を額で受けたせいか、血が流れていた。

石を投げた男は唖然とすると、必死に《じんりゅう》という男性に土下座した。

私にはそれを見ていることしかできなかった。

男性は野次の頭を片手で掴んで持ち上げると、マスクを外し、怒鳴った。


「…貴様!謝る相手が違うのがまだ分からぬか!」


野次を私の前に投げ捨てると、その現になった勇ましい素顔で私を見つめた。


「《トリティア王国》の使者であるこの方は、我が国の長であり我が妻である《まつ》の弟子様だ!…貴様等のやっている事の意味は分かっておろうな!」


…まつ。

私はその恩師の名前をはっきりと覚えていた。

両親を無くしてさまよっていた幼い私を旅の途中で拾ってくれて、生きる全てを教えてくれた。

何よりも、私の愛銃《クイーンスパーク》を一緒に作ってくれた人でもあった。

本名はりゅうまつ。

《くくのき》では男性の場合、名前の後ろに、女性の場合、名前の前に《りゅう》とつけるのが伝統というのを聞いたことがある。

私を庇ってくれた男性は《じん》という名前になる。

じん隊長は私に頭を下げながら言った。


「…とんだ無礼をした。…民の代わりに我が謝る。…すまなかった」


その光景と真実に、唖然とする野次達は訳が分からない様に私から後退りをした。

彼は頭を上げると、額から流れる血を手の甲でぬぐった。

私はとっさにポーチから緊急箱を開くと、一枚の綺麗な滅菌ガーゼを取り出し、じん隊長の額に貼った。


「…かたじけない」


じん隊長は再び一礼をした。


「…いえ、私を守って下さったお礼です♪」


じん隊長はクナキくんとは一つ違った優しい笑みを浮かべた。

まるで別人の様な。
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