ポケモン本棚
□一、朝食はきちんと食べるべし
1ページ/1ページ
いかん。
これは、いかんぞ・・・。
くるるるるると鳴るお腹がさびしい。
(・・・おなか減った。)
ポケットを漁るが、飴は丁度切らしている。
何もないよりましだと思い、唯一見つかったミン〇ィアを三粒口に放り込んでみたが、
変に胃を活性化させたようで状況は悪化。
シングルトレインの運転席で膝を抱え、くるくると回ってみる。
勿論それで空腹が紛れるなんてことはないのだが。
抜け出してコンビニらへんに行こうにもここはトレインの中であり、さすがに空腹を理由に飛び降り自殺はしたくない。
腕時計を見る。
昼食まで後30分・・・耐えれるかな。
思い返せば、今日の朝食は色々な理由があって食べられなかったのだ。
そう、色々な理由があって。
決して朝が弱いとかそんなんじゃない。
「うぁあぁーーー。あーあぁーー。」
黙ってるよりか少しばかり声を出した方が気が紛れる。
うーあーうーあー唸っていると、軽いノック。
「何事ですか。」
「あ、ノボリさん。
どうかしました?」
「・・・今私が聞いたのですが。」
いかにも不思議そうな顔をして、ノボリさんが中に入って扉を閉める。
「どうって、どうもしてませんが?」
「謎の唸り声が運転管理室から聞こえました。」
「・・・あぁ・・・。」
そこまで大きな声だったとは。
うーん、それなりに恥ずかしい。
もう1度椅子をくるりと回転させる。
「単純に、お腹すいたんです。
生憎朝食がカロ〇ーメイトのメープル味onlyになっちゃったんで。」
さすがに何も食べてないとは言えず。
だって女としてOUTでしょ?
あ、男の上司に「お腹すいた」って愚痴ってる時点でもうOUTか。
「それはそれは・・・もしや、ダイエットでございますか?」
「まぁそんなところです。」
適当にあしらうと、ノボリさんは少し顔をしかめた。
「ダイエットは体によろしくないですよ。
食べるものはしっかり食べないと、体が持ちません。」
母親か。
腕を組んで壁にもたれているところは完全に父親風だが、中身は完全にオカンらしい。
「ノボリさんみたいにスリムならいいんですけど、私ぶっくぶくなんで。
丁度いいんですよ痩せれるし。」
椅子の回転を速める。
遠心力ーとか呟いてみるけど、ノボリさんの反応はない。
あーやばい。
まじ空腹・・・。
「空腹空腹空腹ーーー。」
ぐるぐるぐる。
視界が素早く回っていく。
乗り物酔いには強いため、ビビったりはしない。
後何分くらいかな・・・。
腕時計を見るため、一旦椅子を止めようと机に手を伸ばす。
が。
椅子は何故か、自分で止めなくても急ブレーキをかけた。
ほんの少し前に倒れるのを感じて思わず目を瞑る。
と同時に、唇に・・・何かが当たった。
ん?
机に伸ばした手は誰かに捕まれていて、宙に浮いている。
後頭部に回っている大きな手。
ふわりと香る自分とは違う香り。
っの、ノボリさんんんんんん!?!?
慌てて手で胸を押すと、ノボリさんはそっと唇を離した。
「ちょ、な、何するんですか!!」
両手で口を覆う。
顔が熱くて火傷しそうだ。
きっと真っ赤になっているのだろう。
「あ、もしかして初めてでした?」
「あっ当たり前です!!」
「それは申し訳ございません。」
うっわ謝る気0だ。
普段なら「もっと真剣に謝ってくださいよ」と催促できるのだが、今はとてもじゃないが頭が回らない。
だが、ノボリさんは今度は至って真面目顔(いつもだが)で言った。
「ですが、愛梨が今後もダイエットを続けると言うなら、
私は同じことを繰り返します。何度でも。」
愛梨は可愛いのですから、ダイエットなんてしなくてもいいのです。
それで健康を害されると心配ですので、今後はきちんと食事をとってくださいまし。
分かりましたね?
では私仕事に戻ります。
早口でまくし立てて、逃げるようにカツカツと音を鳴らしながら去るノボリさんを、私は茫然と見つめることしかできなかった。
可愛いのですから。
繰り返します。何度でも。
早口言葉のような今の台詞に有り得ない用語が使われていたのは、きっと空腹による幻聴に違いない。
一、朝食はきちんと食べるべし
(破った者はキス)
(んな規則あったっけ・・・?)