ポケモン本棚

□出発進行!
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ギアステーションはその日、いつにも増してごった返していた。

人、人、人。

人々は皆して、ある方向へと走っていく。

「え、嘘でしょ!?」

「マジマジ大マジ!!やばいって!!」

目指す先は、騒ぎになっている場所。

スーパーシングルトレインのホームだ。

列車の到着を待つ人々を駅員と警察が必死に抑える。

駅員総動員・・・いつもサボり気味のクダリでさえ、ギアステーション内を走り回っていた。





全自動システムのスーパーシングルトレインは、いつも通り運転を続け、地下を走っていた。

だがそこには「念のため」として置かれている運転手がいない。

その運転手、愛梨は今席を離れ、7両目でモンスターボールを握りしめていた。

「困りましたね。」

「そうですね。」

隣にいるのはサブウェイマスターのノボリ。

上司兼恋人である。

言葉こそ交わすものの、その目は鋭く正面を見据えており、視線をそらすことはない。

「大人しくポケモンを解放しろ。
ポケモンは我々の道具ではないのだ。」

これは、どういう状況かと言うと。

ノボリはいつもと同じく、スーパーシングルトレインの最終車両で挑戦者を待っていた。

待ち時間というのは、普通以上に長く感じる。

(今頃・・・だと、30連勝あたりでしょうか。)

下車のインカムは入っていない。

久々に本気のバトルができると期待しつつ、ノボリは席を立った。

その時、前の車両から、フードを被った謎の2人組が乗り込んできたのである。

そしていきなりこう叫んだのだ。

「ポケモンを解放せよ!!」

それを合図に、2人どころか大量の人が流れ込み。

何事かと思った愛梨が飛び出してきたのである。

ニュースで見覚えのある服装をした軍団に、ノボリと愛梨はおかれた状況を理解した。

このトレインは、プラズマ団の奇襲にあったのだ。

・・・そして話は戻る。

既に相手がボールから出したヒヒダルマとバルジーナは、誰が見ても分かるくらいに威嚇しており、
いつ技を出してきてもおかしくない状況だった。

「我々はポケモンを傷つけはしない。
もし解放しないと言うのなら、お前らに攻撃をするぞ!!」

愛梨は食って掛かった。

「ポケモンと一緒に生きていくのは、とても楽しいことです!!
何が解放ですか、まるで私たちがポケモンたちを無理やり飼っているみたいじゃないですか!」

「違わないだろう?
ポケモンは人間の勝手な欲望で使われている。
野生に戻すことでポケモンは初めて自分の本来の力を取り戻すことができる!!」

「欲望だなんて!そんな、」

「うるさい!!」

「愛梨!」

バルジーナがエアスラッシュを繰り出した。

ノボリがとっさに庇ったため命中は免れたが、愛梨の頬に1本線の切り傷が残り、血が垂れる。

「大丈夫ですか!?」

「・・・った・・・。大丈夫ですよ、これくらい。
それにしてもやってくれましたねぇ。女の子に傷つけるだなんて、ただじゃおきません。」

挑戦的な笑みを浮かべる愛梨。

モンスターボールを握る手に力を込める。

ノボリはその手をやんわりと掴んで、自分の後ろに引っ張った。

「愛梨、危ないので下がっていてくださいまし。」

紳士的な行動と、それに反する荒い声。

愛梨の頬の赤い傷は、ノボリの沸点を越えさせるには十分すぎる。

「・・・あなたたち、覚悟はできていらっしゃいますね?」

モンスターボールを片手に構えるノボリ。

顔はいつも通りの無表情。

だが、取り巻く空気は酷く怖いもので、愛梨でさえもがビクリと震えた。

灰色の瞳がプラズマ団を見据える。

トレインの中の空気が、一瞬にして緊張に包まれる。

「さぁ、お手合わせ願います。
シャンデラ!!」

ノボリがモンスターボールを投げた。

光の中から姿を現した、

「デラッシャーーン!!」

「フワラーーー!!」

シャンデラと・・・フワライド。

勿論、1つのモンスターボールに2体のポケモンが入るなどありえない。

それにノボリはフワライドなんて持っていないし、そもそもフワライドはイッシュにはいないはずだ。

全ての視線が、フワライドと、その奥の人物に向けられた。

「久々のバトルだねフワライド。よろしくね。」

「フワー♪」

「愛梨・・・私、先ほど下がっていてくださるよう言ったはずですが・・・。」

「何で下がるんです?私が弱すぎて足手まといだからですか。」

「いっいえっそうではなくて・・・。」

慌てるノボリを諭すように、当たり前のように隣に立つ愛梨は言った。

「私1人だけ見ているだけなんてできません。
私だってノボリさんを守りたい。
確かにノボリさんやクダリさんに比べたらまだまだだけど、だてに駅員やってるわけじゃないんです。
少なくとも普通のトレーナーさんに余裕で勝てるくらいの力は、あります。」

それに、と愛梨がプラズマ団の方を向く。

「向こうはマルチなんでしょう?
だったらこっちもマルチでお相手しないと、ポケモンバトルが成り立たないじゃないですか。」

正論だった。

シングルにはシングル、ダブルにはダブル、マルチにはマルチ。

互いに公平な勝負が行われるように決められたルール。

バトル施設の頂点に立つ者として、公平に相手をするのは、忘れてはいけない当然のことだ。

「だから、ノボリさん。
クダリさんより全然やりにくいと思いますけど、私とマルチバトルしましょうよ。」

愛梨がノボリに笑いかけた。

その瞳の輝かしいこと。

きっと久々のバトルで心が躍っているのだろう。

こんな状況でさえ楽しんでしまえる彼女は、本当に素晴らしい。

そして、バトルを楽しんでいただくことが仕事のサブウェイマスターがその楽しみを奪うのは、いけないことだろう。

「・・・いいでしょう。
今回の運行は、特別にスーパーマルチと致します。」

今から始まる、想像を遥かに超えるであろう心躍るバトルと、愛しい愛梨との初のタッグバトル。

考えただけでゾクゾクする。

と、愛梨がぽつりと呟く。

「いつものアレ、私バージョンで言ってみて下さいよ。
言ってみたかったんですよね・・・ノボリさんのパートナーの証。」

あぁ、そんな可愛いことを言われてしまったら。

この楽しみに自重をかける理由など、

ございませんね。



「わたくし サブウェイマスターのノボリ と 申します!
片側に 控えるは シングルトレイン運転手の 愛梨です。
さて マルチバトル
お互いの 弱点をカバーしあうのか
はたまた 圧倒的な攻撃力を みせるのか
どのように 戦われるのか たのしみで ございますが
あなたさまと パートナーとの息が ぴたりと あわないかぎり
勝利するのは 難しいでしょう。

では 愛梨 なにかございましたら どうぞ!」

「ルールを 守って 安全 運転!
ダイヤを 守って みなさん スマイル!
指差し 確認 準備 オッケー!
目指すは 勝利、










出発進行!
(「心躍るバトルをあなたに。」)
(「やっぱり仕事キャラやめましょう。楽しめませんよ?」)
(「・・・では、かましてやりましょうか。」)
(「そうこなくっちゃ!」)

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