ぬらりひょんの孫 本棚

□牛の丑三つ時事件
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・・・ビビった。

心臓が止まるかと思ったぜ。

誰かの気配を感じて起きたら、雪んこの顔が目の前にあった。

何で雪んこが此処にいる?

「ななな、何で此処にいんだよ雪んこッ!!」

ちょっと待て。落ち着け、俺。

「何でって・・・此処は私の部屋・・・。」

・・・は?

「はぁぁ!?寝ぼけてんのか、あ!?」

有り得ん。

だっておい、考えてみりゃ、今って丑三つ時じゃねーか。

そんな時間にこいつ・・・やっぱ寝ぼけてんのか。

うん、そうだ。そうとしか思えん。

そうと分かれば、さっさと帰れ雪んこ。

言おうとして、雪んこを見たら・・・。

「ん・・・?」

「ふぇ・・・?」

ドクン。

げ、何だこの感じ。

心臓が脈打って・・・。

まさか、俺は今こいつを・・・

可愛い、と

思っちまったのか?

「ないっ!それはないぃっ!」

「クァーーッ。」

・・・。

おい、てめぇ・・・。

生殺しじゃねぇか。

牛鬼様に仕える身として、そんな考えは持たない。

だが、俺にもない訳じゃねーんだぞ。

そーいうの、は。

「雪んこ!聞いてんのか!!」

「・・・さい・・・。」

「は?」

「おやすみ・・・なさ・・・」

「え。」

そう言い捨て、雪んこは俺の布団へと倒れ込んだ。

体が固まった。

全世界が止まって見えた。



少し落ち着いてから、そっと雪んこの頭に触れてみた。

柔らかい。

そしてそれが原因で、雪んこの瞼や唇が見えた。

ふぅん。

こいつ、気持ち良さそうに寝るじゃねーか。

己のそれを邪魔されたことが、だんだんとイラついてきた。

「・・・チッ。」

とりあえずこいつをどこかにやろうと、イライラと布団を出て、雪んこを抱き上げる。

髪からのほのかな香りが鼻をくすぐる。

廊下を歩いていたら、ふいに雪んこがモゾモゾと動いた。

やべぇ、頼むから今起きないでくれ。

今起きられたら、完全なる夜這い状態だ。

慌てて足を止める。

すると雪んこは、俺の着物を軽く握り、

「へへ・・・♪」

と、幸せそうな笑みを浮かべた。

そのまま俺の胸に擦り寄り、また穏やかな寝息を立てる。

嫌じゃなかった。

いや、むしろ・・・。

「いぃや!認めねぇ!俺は認めねぇからな、雪んこ!!」

一人で何やってんだ。

自然と足が速くなる。

雪んこの部屋の襖を足で器用に開け、布団に寝かせる。

けっ。

俺の眠りを妨げといて、気持ち良さそうに。

さっさと寝よう、と立ち上がったが、一つ思いつき、膝をつく。

そして、額に軽く口付けをした。

雪んこはう〜んと唸り、顔をしかめる。

俺の眠りを妨げた罰。

そして、俺の色々への報酬だ。

もう一度立つと一気に恥ずかしさが込み上げてきて、足早に立ち去る。

「お前が悪いんだからな!!」

そう言い捨て、雪んこの部屋を出た。



寝不足。

クソ、眠れなかったじゃねーか。

一発あいつに言ってやろうと思うのだが、どうにもこうにも、まともに目が合わせられない。

この心臓といい・・・。

まだ鼻に残ってる香りといい・・・。

まさか俺は雪んこを・・・?

「牛ー頭。牛鬼様が呼んでるよ。行こ。」

「認めねぇ!」

「え?」

「俺は認めねぇからなぁーッ!!」

木から飛び降り、ズンズン歩く。

後ろから馬頭の

「変な牛頭。」

という声が聞こえた。





牛の丑三つ時事件
(畜生、調子が狂う・・・。)

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