ぬらりひょんの孫 本棚

□最後まで
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「俺の妻になってくれ。」

あなたは二年前、何の前触れもなく私にそう告げた。

冗談言っちゃって、と軽く笑うと、冗談じゃねぇと返されて。

あの時の貴方の瞳・・・今でもはっきりと覚えているわ。

それまで私が見たこと無かった程の真剣さ。

その瞳を見ていたら、だんだんと冗談に思えなくなってきて。

抱きしめられた時は、もう本当に心臓が破裂しそうだった。

耳に貴方の熱い吐息がかかって、

苦しいほどに強く抱きしめられて、

体全体に力が入らなくて、

でも

嬉しくて。

このままでいられたらと思ったけど、息苦しさに限界が来てしまった。

その事を伝えると、少し名残惜しそうに私を放す。

その顔は思いの他赤く染まっていて、思わず笑っちゃった。

「なんだよっ。」

恥ずかしそうに視線を外す貴方。

そんなあなたが愛しくて、私は彼の胸に体を預けた。

「大好きよ。」

そう言って。

貴方が捩眼山に帰ることになったのを知ったのは、その後の事だった。

私はリクオ様と盃を交わした身。

ついて行くなんて有り得ない。

それはきっと、貴方も分かっていてくれたのね。

だから貴方はこう言った。

「頭を継いだら、絶対に迎えに来る。だから・・・」

待ってろ、と。

だから私は涙を堪え、黙って頷いた。

「約束破ったら凍らせてやるから。」

そう言うと、貴方は笑って

「馬ー鹿。」

と言い、私の唇に軽く口付けた。

そして彼は本家を去って行った。



―――あれからもう二年も経つのね。

ため息混じりに空を見上げる。

本家の垂れ桜を見ながら一人の時間を過ごす。

それは二年前から、毎日の日課と化していた。

あいつ、頑張ってるかしら。

今まで何度も「確かめに行こう」と考えた。

でも私にはそんな権利は無い。

だって私は約束したんだもの。

貴方が迎えに来るまで

待つ、って。

もしかして私の事なんて忘れちゃったのかしら。

始めは「そんなはずは無い」と思えていたのに、最近はだんだんと思えなくなって来ている。

これが時間の流れと言うものなのだろう。

そんな自分が嫌で仕方ない。

嫌で嫌で、苦しい。

でも私は待つしかないの。

貴方を信じて。

つぅ、と熱いものが頬を伝った。

その時だった。

ドス、ドス、ドス。

あまり聞かない荒い足音と、何やら騒がしい本家の声が耳に入ってきた。

いや、違う。

聞いたことある。

この足音。

この感じ。

この時、私の推測は確信へと変わっていた。

会いたかった。

ずっとずっと会いたかった。

だけど立ち上がった私の足は、決して動くことは無かった。

どうして。

一秒でも早く会いたいのに。

ずっとずっと、

待っていたのに。

そして、ふと気づいた。

そう、私は待っていた。

貴方を信じて。

だから、待っていなければいけない。

最後の最後まで。

貴方が私の名を呼ぶ、その瞬間まで。

だってそうでしょ?

あなたは約束を守る人だもの。

だから、私も。





最後まで
(「雪んこ。」)
(涙の氷が、落ちた。)

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