ぬらりひょんの孫 本棚

□酒華
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「私の事、好き?」

「!?ゲホッ、ゴホゴホッ!」

思わず口に含んでいた味噌汁を噴出しそうになり、慌てて止めて咽こむ。

この女、いきなり何を言いやがる。


今は夕食時。

適当に席に着き、普通に飯を食っていた。

炊飯器からせっせとご飯をよそっていた雪んこも、どうやら一息ついたらしく、パコ、と蓋を閉める。

そして振り向き、俺と視線が合った。

すかさず視線を逸らす。

だがあろう事か、雪んこは俺に近づいてきた。

そして言い放った。

「ねぇ、私の事好き?」


・・・そして今に至る。

咽ながらも雪んこの顔をちらりと伺ってみたが、冗談で言っているわけでは無さそうだ。

な、何がどうなってんだこりゃ。

顔を上げると、リクオが目に入った。

黙々と飯をかき込んでいる。

そして俺の視線に気付き、茶碗を置いた。

そして、万遍の笑みで親指を突き立てる。

ぺカッと光るその笑い方は、あのじじぃにそっくりだった。

と言う事は。

「・・・てめぇか。」

ボソ、と呟き、睨みつける。

するとリクオは慌てて手を振り、隣を指差した。

そこに座るのは、我らが大将、牛鬼様。

ぎゅ、牛鬼様、何て事を・・・!

だが牛鬼様は、黙ったままゆっくりと手を上げた。

指差す先は、俺の隣。

何を感じ取ったのか、料理はすでに空っぽで、そこは蛻の殻だった。

馬頭丸、てめぇか。

やけに急いで食ってんなと思ったら、こういう事だったのか。

・・・あの野郎、ぶっ殺してやる。

そう思って立ち上がって、はっと気付く。

おい。

何だこの視線の集まり様は・・・。

ひそひそと話す奴。

にやにやとこっちを見つめてくる奴。

・・・随分と厄介な事になったらしい。

さっと顔が青ざめていくのが分かった。

そんな俺に構いもせず、雪んこは俺を問い質す。

「ねぇ、私の事好き?好き?」

「うるせぇ!黙ってろッ!」

「ねぇってば・・・。」

きゅむ、と俺の脚に抱きついた。

周りから歓声が上がる。

限界だ。

くっついている雪んこを抱き上げ、俺は出来る限りの速さでその場を離れた。

だが、面白がっているのか、

「何処行くんだよ、二人でラブラブか?」

とか言いながら着いてくる馬鹿野郎共がいたため、何とか追手を振り切り、俺は押入れの中に隠れた。

扉の外を足音が通り過ぎて行く。

逃げ切ったか。

一息ついて、気付く。

み、密室・・・?

「ねぇ、ここ何処よ?」

「・・・。」

答える気力さえねぇ。

腕の中に酔った女、しかも完全密着状態。

話せなくもなるだろ。

ってか何だよこの展開!

ぶっ殺すぞ管理人!(すいません 汗)

色々と考えていると、ふわっと雪んこから香りがした。

その瞬間、俺の中で完全なる答えが導き出される。

「・・・なぁる程ね・・・。」


あべこべゲームをしよう。

そう言った馬頭丸。

俺は断ったが、あいつはこっちなどお構い無しに、俺に質問をぶつけてきた。

仕方なくそれに対応した答えを言ったが、一つだけ、正直に答えてしまった質問があった。

「雪女の事、気になる?」

まさかの質問に、俺は思いっきり否定した。

・・・自分だけが知る感情。

そこを思いっきり突かれて、俺は焦ったんだろう。

雪んこが嫌いじゃない、なんて、口が裂けても言えない。

だが、これはあべこべゲーム。

否定。

それは、

同意、になる。

それを聞いた馬頭丸は、これは大ニュースだ、とでも思って、牛鬼様に報告したんだろう。

そしてそれを、何らかの理由でリクオが聞いてしまった。

そして「それは真実か」となり、実験でも行ったんだろう。

雪んこから香った、酒の香り。

きっと直前に、アルコールだけ吸わせたんだろう。

だから顔が赤くなる前に、こいつはおかしくなったのだ。

「なぁ。」

「ふぁい。」

そら見ろ。

酔ってきて顔が赤くなり、呂律も回らなくなっている。

「お前、リクオに何言われた?」

「リクオひゃまに・・・?」

ん、と少し考え、言った。

「牛頭丸に、私の事好きか聞いてくるように言われましたぁ・・・。」

やはりな。

「というか、貴方誰ですかぁ・・・?」

雪んこが顔を上げた。

思わずドキリとしてしまう。

いつもは感じられない、色気。

ふにゃ、と目を擦る。

俺は、何かが体内で膨れ上がってきている様な気分だった。

こいつ、よく見ると結構顔いいんだな・・・。

顔が火照る。

何やってんだ俺。

その時。

口に何かが触れた。

ふわっと触れたそれは、とても温かく、柔らかく。

唖然とした俺に、雪んこは微笑みながら言った。

「あなた、とても温かいですね。」

「!」

・・・こいつ。

俺の理性をぶっ飛ばす気か。

俺が、温かい?

やっぱ火照ってんだな・・・。

そう、火照ってんだ。

決して深い意味は無いはずだ。

・・・きっと。

しかし。

「私の事、好き?」

優しい笑みで言う雪んこを見ていたら、そんな事はどうだってよくなってきた。

何度も繰り返す雪んこ。

誰もいないのを確認してから、口を開く。

「そんなに、知りたいか。」

「知りたいですぅ・・・♪私の事、好き・・・?」

・・・。

「あぁ。」

短く。

でも、こいつの胸に届くようにと願いをこめて。

どうせ明日には忘れちまってるだろうがな・・・。

その時。

がらっという音と共に、眩しい光が差し込んできた。

思わず目を細める。

うっすらと影が見えた。

・・・おい。

あの頭・・・。

骨・・・。

「よし、ここで観察してやろっと♪」

「誰をだ?」

「勿論、雪女と牛頭丸♪・・・って、え?」

振り向いた馬頭丸に、優しい微笑を投げてやる。

「ありゃ・・・、ご、牛頭丸さんですか・・・。」

「・・・てめぇ・・・。」

ぶっ殺すっ!!!

その後、生死をかけた鬼ごっこが始まったのは言うまでも無く。





酒華
(誘う、誘われる。)

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