ぬらりひょんの孫 本棚

□始まり
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後数時間で、今年が終わる。

少し寂しげだが、そんな事など全く思わせない程、奴良組は盛り上がっていた。

毎年行われる、幹部も含めた年明けの宴会。

騒ぎ、酒を飲み、笑い合う。

年越し蕎麦は気付けばおせち料理に変わり、朝まで宴会は続くのだ。

いつもは忙しなく動かなければならない女達も、交代しながらゆっくり参加することができる。

そのためこれは、皆が心待ちにしている行事の1つだった。



その頃、先ほど仕事が終わった雪女も少し酒を味わっていた。

あまり強い方ではない為多くは飲まないが、「甘酒くらいなら」と周りに言われ、1杯だけ貰ったのだ。

襖の近くでは、青と黒が毎年恒例の酒豪勝負をしている。

奥ではリクオがけらけらと笑い、その傍で馬頭丸らしき人物が倒れている。

縁側では、珍しくあの三羽烏達がほろ酔いになっている。

酒をあおり口に含むと、独特の味が広がった。

少し余韻を味わい、飲み干す。

少し体が熱くなり、ふぅ、と一息ついた。

そして気付く。

いつも見るアイツがいない。

会うたびに喧嘩を売ってくる牛頭丸。

予想はしていたが、まさか本当に参加していないとは。

「馬鹿な奴・・・。意地張っちゃって。」

自然と出た言葉に赤くなる。

何言ってるの・・・これじゃあまるで、あいつが気になってるみたいじゃないの。

ない。

絶対無い。

ぶんぶんと首を横に振る。

「あんな奴・・・別に・・・気になってなんかっ・・・。」



・・・で。

結局料理と酒を一瓶、持ってきてるあたしって一体・・・?

「違う!これはあいつが後から「腹減った」とか言ってこられたら困るからであってっ!お腹減ってんじゃないかとか、少しくらい飲めばいいのにとか、そんなんじゃっ・・・。」

「うるせーよ。」

・・・言葉を遮られた。

声の方を向くと、案の定、枝の上に座る牛頭丸。

片足を乗せ、その膝の上に肘を置いてこっちを見ている。

月の光が顔に当たり、やっぱり美形だ、なんて思うのは気付かないとして。

「夜遅くにピーピー叫ぶな。近所迷惑だろーが。」

うぐ、正論。

ただここで負ける程弱くない。

「うるさいわね。・・・あんた、宴会参加しないの?」

「大人数は嫌いなんだよ。」

その目に少しだけ闇が差した。

・・・が、それは直ぐに挑発に変わる。

「お前こそ、こんな所に居ていいのか?大切なリクオ様に酒注がなきゃいけねーんじゃねーの?」

言って、むかつく笑みを浮かべる。

本当・・・嫌な奴。

キッと睨み返すと、ふん、と呟いて横を向く。

勝負は一段落付いたけど。

・・・困ったわね。

この料理とかをどうしましょう。

別に持って帰ればいい話なのだが、さっきの暗い瞳を見てしまっては、戻ることが出来ず。

迷ってから、雪女は諦めのため息をつき、木の下に動いた。

「ねぇ。」

「・・・。」

答えは無い。

「ちょっと隣いいかしら?」

すると牛頭丸は驚いたように雪女を見て、

「勝手にしろ。」

とだけ答えた。

雪女が隣に来ても、お互いの視線が合うことは無い。

顔を見るのも嫌なのか、照れ隠しなのか。

きっと前者ね。

そんな事を思いながら、持ってきた料理とお猪口を差し出す。

「せめてもの情けよ。ありがたく思いなさい。」

「・・・てめぇ。」

「ほら。」

差し出されたお猪口を、牛頭丸は黙って受け取った。

そこからはお互い黙ったままだった。

話すような雰囲気ではなかったし、特に話すことも無い。

交わした会話は、唯一1つ。

「なぁ。」

「何。」

「これを用意したのは、お前の意思か?」

雪女は返答に困った。

そうだと言えば、自分は牛頭丸の事を心配した、と言っているのと同じことになってしまう。

考えた挙句、

「リクオ様のご命令よ。」

と答えた。

「ふーん・・・。」

牛頭丸はお猪口を見つめてから、

「じゃあ礼は言わねぇ。」

と言い、お猪口を空にした。

黙々と時だけが過ぎる。

酒が残り僅かとなってきたため、

「そろそろ戻るわね。」

と言いかけたとき。

夜の街に、鐘の音が響き渡った。

それは、年が明けた合図。

本家の声が一段と大きくなった。

「・・・年、明けちゃった。」

「・・・。」

「ふふっ・・・」

鐘が鳴り終わると、何故だか笑いが込み上げてきた。

「何笑ってんだよ。」

「別に。喧嘩ばっかのあんたと一緒に年明けなんて、考えてもいなかった。」

考えれば考える程クスクス笑いは止まらず、牛頭丸が顔を片手で覆いながら

「ったく・・・」

と唸る。

そしてポツリ、と呟いた。

「悪くねぇな、誰かと一緒に年明けっつーのも・・・。」

雪女は牛頭丸に、そっと笑みを浮かべた。

新しい年が始まる。

今年は何があるだろうか。

きっと困るし悩むし、今まで通り大変だろうけど。

「今年も、よろしく。」

そう思ったのは、はたしてどちらだろうか。
          





始まり
(あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします by 流転)

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