ぬらりひょんの孫 本棚
□始まり
1ページ/1ページ
後数時間で、今年が終わる。
少し寂しげだが、そんな事など全く思わせない程、奴良組は盛り上がっていた。
毎年行われる、幹部も含めた年明けの宴会。
騒ぎ、酒を飲み、笑い合う。
年越し蕎麦は気付けばおせち料理に変わり、朝まで宴会は続くのだ。
いつもは忙しなく動かなければならない女達も、交代しながらゆっくり参加することができる。
そのためこれは、皆が心待ちにしている行事の1つだった。
その頃、先ほど仕事が終わった雪女も少し酒を味わっていた。
あまり強い方ではない為多くは飲まないが、「甘酒くらいなら」と周りに言われ、1杯だけ貰ったのだ。
襖の近くでは、青と黒が毎年恒例の酒豪勝負をしている。
奥ではリクオがけらけらと笑い、その傍で馬頭丸らしき人物が倒れている。
縁側では、珍しくあの三羽烏達がほろ酔いになっている。
酒をあおり口に含むと、独特の味が広がった。
少し余韻を味わい、飲み干す。
少し体が熱くなり、ふぅ、と一息ついた。
そして気付く。
いつも見るアイツがいない。
会うたびに喧嘩を売ってくる牛頭丸。
予想はしていたが、まさか本当に参加していないとは。
「馬鹿な奴・・・。意地張っちゃって。」
自然と出た言葉に赤くなる。
何言ってるの・・・これじゃあまるで、あいつが気になってるみたいじゃないの。
ない。
絶対無い。
ぶんぶんと首を横に振る。
「あんな奴・・・別に・・・気になってなんかっ・・・。」
・・・で。
結局料理と酒を一瓶、持ってきてるあたしって一体・・・?
「違う!これはあいつが後から「腹減った」とか言ってこられたら困るからであってっ!お腹減ってんじゃないかとか、少しくらい飲めばいいのにとか、そんなんじゃっ・・・。」
「うるせーよ。」
・・・言葉を遮られた。
声の方を向くと、案の定、枝の上に座る牛頭丸。
片足を乗せ、その膝の上に肘を置いてこっちを見ている。
月の光が顔に当たり、やっぱり美形だ、なんて思うのは気付かないとして。
「夜遅くにピーピー叫ぶな。近所迷惑だろーが。」
うぐ、正論。
ただここで負ける程弱くない。
「うるさいわね。・・・あんた、宴会参加しないの?」
「大人数は嫌いなんだよ。」
その目に少しだけ闇が差した。
・・・が、それは直ぐに挑発に変わる。
「お前こそ、こんな所に居ていいのか?大切なリクオ様に酒注がなきゃいけねーんじゃねーの?」
言って、むかつく笑みを浮かべる。
本当・・・嫌な奴。
キッと睨み返すと、ふん、と呟いて横を向く。
勝負は一段落付いたけど。
・・・困ったわね。
この料理とかをどうしましょう。
別に持って帰ればいい話なのだが、さっきの暗い瞳を見てしまっては、戻ることが出来ず。
迷ってから、雪女は諦めのため息をつき、木の下に動いた。
「ねぇ。」
「・・・。」
答えは無い。
「ちょっと隣いいかしら?」
すると牛頭丸は驚いたように雪女を見て、
「勝手にしろ。」
とだけ答えた。
雪女が隣に来ても、お互いの視線が合うことは無い。
顔を見るのも嫌なのか、照れ隠しなのか。
きっと前者ね。
そんな事を思いながら、持ってきた料理とお猪口を差し出す。
「せめてもの情けよ。ありがたく思いなさい。」
「・・・てめぇ。」
「ほら。」
差し出されたお猪口を、牛頭丸は黙って受け取った。
そこからはお互い黙ったままだった。
話すような雰囲気ではなかったし、特に話すことも無い。
交わした会話は、唯一1つ。
「なぁ。」
「何。」
「これを用意したのは、お前の意思か?」
雪女は返答に困った。
そうだと言えば、自分は牛頭丸の事を心配した、と言っているのと同じことになってしまう。
考えた挙句、
「リクオ様のご命令よ。」
と答えた。
「ふーん・・・。」
牛頭丸はお猪口を見つめてから、
「じゃあ礼は言わねぇ。」
と言い、お猪口を空にした。
黙々と時だけが過ぎる。
酒が残り僅かとなってきたため、
「そろそろ戻るわね。」
と言いかけたとき。
夜の街に、鐘の音が響き渡った。
それは、年が明けた合図。
本家の声が一段と大きくなった。
「・・・年、明けちゃった。」
「・・・。」
「ふふっ・・・」
鐘が鳴り終わると、何故だか笑いが込み上げてきた。
「何笑ってんだよ。」
「別に。喧嘩ばっかのあんたと一緒に年明けなんて、考えてもいなかった。」
考えれば考える程クスクス笑いは止まらず、牛頭丸が顔を片手で覆いながら
「ったく・・・」
と唸る。
そしてポツリ、と呟いた。
「悪くねぇな、誰かと一緒に年明けっつーのも・・・。」
雪女は牛頭丸に、そっと笑みを浮かべた。
新しい年が始まる。
今年は何があるだろうか。
きっと困るし悩むし、今まで通り大変だろうけど。
「今年も、よろしく。」
そう思ったのは、はたしてどちらだろうか。
始まり
(あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします by 流転)