ぬらりひょんの孫 本棚
□あなたと一緒
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時を一瞬で引き裂く、光の柱。
闇に輝くそれは、地域によっては神として崇められているという。
迸る強大な力は人間を死に至らし、時には妖怪をも襲う。
空を切り裂く光線。
低く鳴り響く音。
それはとてつもなく威厳があり、又少し恐怖をも思わせるのだ。
そう。
少しだけ・・・。
「ひぃぃぃぃっっ!!!」
轟く雷鳴に耳を塞ぐ。
壁に張り付き、まるで忍者のように廊下を進む雪女は、ひどく滑稽なものだ。
ここに嫁ぐときに心配していた(けど口には出せなかった)事が、現実になってしまっている。
子供の頃から雷は苦手だった。
だんだんと迫ってくる光と音に耐え切れなくて、いつも布団に潜っていたのを覚えている。
ただ本家は一応都会であり、人も多く、雑音も多い。
最近は雷が鳴る程のおぞましい雲は見ておらず、あったとしても雑音で音が小さくなっていたため、何とか耐えられていたのだ。
しかし。
ピカッと光った空にまた身構える。
途端、特大の轟音。
捩眼山は暗く、音も無い。
そんな中で鳴る雷というのは・・・。
耐え切れるか以前の問題で、自分にとっては生死をも分ける大事件なのだ。
今もそう。
少しでも気を抜くと、それを見計らったかのようにヤツは迫ってくる。
魂が飛びかけるのは言うまでも無い。
「う、うぅ・・・。」
高速で部屋に戻り、布団の上にしゃがみ込む。
深夜という事もあり、大声で叫ぶ事はできない。
・・・とりあえず、もう動けないわ・・・。
精神は限界に達していた。
自分でも情けないと思う。
だが、こればっかりは・・・。
雪女は膝を抱え、外を睨んだ。
今日はとりあえず布団に潜って・・・一人で寝れるかしら。
・・・だが。
その心配は無くなるのだが。
「ひゃ・・・!」
いきなり体が引っ張られた。
驚いたのと同時に、とっさに手を突こうと腕を伸ばす。
それをしっかりと掴まれ、雪女は背中から何かに倒れた。
「何やってんだ。」
見上げると、そこには寝巻き姿の牛頭丸が。
「こんな夜中にドタドタと走る音がするもんだから、まさかとは思ったが・・・。」
「・・・あ。」
引っ張ったのは自分の夫、牛頭丸。
祝宴を挙げて夫婦になったというのに、結局お互い喧嘩腰なのは変わらないままで。
ちょっと私としては悲しかったりもする。
心配もするし、不安にもなる。
あなたはそんなの欠片も思ってないんでしょうけど。
またお前か、とでも言いたげな発言にかっとなり、言い返そうとする。
だが、同時に光を放つ空。
「いやぁあぁっ!!」
不意打ち。
雷・・・。
本当憎いヤツ・・・。
咄嗟に抱きついた柱をさらに強く掴む。
あぁぁ、震えが・・・。
・・・。
でも、こんな所に柱なんてあったかしら?
あれ?
後頭部に回された腕の感触で気付く。
こ、これは・・・。
つまり・・・。
そういう展開なの?
確かめたいが、当たってた時の羞恥心を考えると、とてもじゃないけど無理。
目の前に見える寝巻きと、えっと、その・・・肌。
「さてはお前・・・。雷苦手なんだな?」
あぁ、私、何て恥ずかしいことしちゃったのかしら・・・。
驚いた拍子に牛頭丸に抱きつくなんて・・・。
あぁぁ、恥ずかしいっ!
「しっ仕方ないじゃない。子供の時から駄目なのよ。」
「雷ごときでねぇ・・・。」
「そうよ、あんたの言う「ごとき」が私は怖」
途中で響いた音により言葉が中断される。
思わず硬くなる私に振ってくるのは、馬鹿にしたような鼻笑い。
「笑ってんじゃないわよ。」
「別に。」
すると牛頭丸は私を抱え、静かに自分の布団に下ろした。
「な、何のつもり!?」
警戒心をバチバチに放出している私とは裏腹に、平然とした様子で牛頭丸は布団に入る。
「さては襲う気ね!?」
「馬鹿。」
牛頭丸が勢い良くこっちを向く。
「どうせ一人じゃ寝られないんだろうと思って、情けかけてやってんだ。感謝しろ。」
「なっ!?」
何を言い出すかと思えば。
私達はいつも同じ部屋で寝ている。
一応夫婦なのだしね。
でも勿論布団は別々。
だから牛頭丸の布団で寝ても、感覚としては大して変わらない。
・・・と言いたいのだけれど。
外の雷は益々強力になっているようだった。
一人で怯えるか、夫に甘えてみるか。
夫なのだから、頼るのが普通の考えよね。
でも普段から甘えるようなキャラじゃないから、変に緊張しちゃう。
体を起こそうとしていた手を戻し、布団を口まで被る。
温かい。
雪女が苦手な熱じゃなくて、心にしみこむ温かさ。
それを感じて、何だか安心してきた。
何だかんだ言っても、結構頼れるし・・・。
もし落ちても守ってくれそうだし。
とても不本意だけど、今回は・・・。
しょうがないわよ、ね。
ちらりと横を向くと、牛頭丸は既に目を閉じていた。
こんな状況でも平然と、しかも何もしないでいられるというのは、さすが若頭と言った所か。
本家にいた時は見たこと無かった、髪を下ろしている姿。
もう何度も見ているのにドキドキが止まらない。
この感情はどういうことなのか。
それははっきりとしている。
最初こそ意地張っていたものの、お互いに気持ちが通じ合ってからは、もう素直に認められる。
「ありがと、牛頭丸。」
小さく呟いた。
いつも喧嘩ばっかりだけど、私はあなたのこういう所に惚れたの。
こんなに怖い雷の夜も、
あなたと一緒なら・・・。
あなたと一緒
(「ひぃぃ!!」)
(「・・・プッ」)
(「うっうるさい!///」)