駄文

□フーキーズ 調理実習
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「この手は何だ?」

放課後の風紀委員室にやってきた平八郎を出迎えたのは蓮の満面の笑みと差し出された両の手のひらだった。
何かを渡す約束もしていなければ、何かを催促される覚えもない。
差し出される手を叩き落とし、平八郎は先の言葉を言った。
「痛いなぁ、もう。へーちゃんのクラスって今日の5限と6限、調理実習でケーキ作ったんでしょ?」
「あぁ?そうだけど?」
「だから、ハイ」
そして、もう一度差し出され叩き落される蓮の両の手のひら。
「痛いってば」
「意味わかんねぇんだよ!」
「だから、作ったケーキ頂戴!」
意味がわからないと激する平八郎に、蓮は何故通じないのかと声を荒げる。
普通に考えれば通じなくて当たり前なのだが、蓮の頭はどうやらその辺を色々と超越しているようだ。
「ケーキ?ねぇよ、そんなもん」
「?!!そんな?!!へーちゃんが、へーちゃんがケーキを持っていない・・・??!!!そんな馬鹿な!!!!!」
平八郎の言葉に蓮が大きく後ずさったその時、晴彦がひょこりと平八郎の背中から顔を出した。
「皆さん、こんにちは!あっへーちゃん、ケーキくださいっ」
「・・・ケーキなんかねぇよ」
ぴょんと平八郎の前に回り出た晴彦は蓮と同じ事を言い、蓮と同じ事を言われ、蓮と同じ様に大きく後ずさった。
「そんな?!!誰に言われなくても他人の世話を焼き苦労を背負い物を分け与え、あまつさえ七にさえも慈悲の雨を降らせるへーちゃんが調理実習のケーキを持ってきていないだなんて?!!!そんなこと・・・そんなこと有り得ません!!!!!」
「いや・・・そんなこと言われてもだな、持ってきてないもんは持ってきてないし」
蓮と同じ、いやそれ以上の晴彦の言い草に平八郎はややげんなりとする。
「持ってくるなんて約束してねーし、そもそも持ってこようにもどわ?!!!」
平八郎が言葉の途中でいきなり大声を上げ、前に倒れる。
後ろに和馬が片足を上げて立っていたので、おそらく平八郎は和馬に蹴りを入れられたのだろう。
「入り口塞いでんじゃねぇよ!!このヒヨコ頭が!!」
「だからって、いきなり後ろから蹴り飛ばす奴があるか!!」
「てめぇの非を棚に上げてんじゃねぇよ!!」
「別に上げてねーだろが!!」
「口喧嘩なんかしてる場合じゃないよ今は!!!」
「そうですよ!!!喧嘩なんか後でしてください!!!!」
いつものように喧嘩を始めようとした和馬と平八郎だったが、それよりも凄い剣幕で蓮と晴彦に中断させられた。
その剣幕には流石の和馬も驚き口をつぐんだ。
「へーちゃん!何でケーキ持ってきてないの?!!俺凄く楽しみにしてたのに!!」
「そうですよ!楽しみにしてたのにケーキ持ってないだなんてあんまりですよ!!」
蓮と晴彦が平八郎に掴み掛からん勢いで捲くし立てる。
平八郎は二人のその勢いに困惑しきって立ち尽くす。
だが、救いは意外なところから降って湧いた。
「あ?ケーキって調理実習のか?だったら、クラス全員に欠片も残らず奪い取られていってたぞ?」
「なんだって?!!」
「カズ君、それは本当ですか?!!」
「?あぁ」
「1番に鷲掴んで奪い取っていったのはお前だけどな!」
和馬の言葉に蓮と晴彦はショックを受け、蓮にいたっては床に両手をついている。
当の和馬は訳もわからず首を傾げている。
「なんだ?こいつら・・・」
「調理実習のケーキが食いたかったらしいぞ」
「はっくだらねっ」
吐き捨てるようにそう言って、和馬は部屋の入り口から離れ椅子にどっかりと腰掛ける。
平八郎も項垂れてぶつぶつと何かを言い続けている蓮と晴彦を迂回し、椅子に座る。
何故ケーキ一つでこんな理不尽な気苦労を背負わなければいけないのかと平八郎が心の中で自問したところで小日向が部屋に走りこんできた。
「みんなみんな!!大変だよどうしよう!!!先生困っちゃう!!!」
小日向は困ると言う割には顔に笑みを浮かべている。
そして、何故か沢山の紙を抱えていた。
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