気づかれないようにby三池亮太

□気づかれないように

by三池亮太
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こんなはずじゃなかった。

このオレが誰かに夢中になるなんて…。


しかも 翔や京介がちやほやしているあの娘に恋してしまうなんて…。

奈緒ちゃんとは歌番組やオレ達のバラエティー番組で一緒になる事が度々あったけど、最初はちょっと可愛いな、くらいで気にも止めていなかった…というより翔と京介が夢中になってる姿に内心ひいてる感じで。


オレはあんな風に女の子にデレデレするのは趣味じゃないから、たま〜にからかうくらいで特別に親しいって訳じゃなかった。



あるテレビ局の二時間ドラマでの共演が決まった時も翔と京介にブーブー言われたけど、正直ふたりの反応がウザくて そんな騒ぐなよって感じに思ってた。


どうしてそんなに奈緒ちゃんがいいの?

あれくらいの可愛い子なら他にいくらでもいるのに。


そんな反発心もあって彼女には特別興味を持たなかった。


そう あの時までは…。


撮影に入ってオレ達は高校生のカップルの役の為、制服を着ていた。

ある時 奈緒ちゃんがオレをじっと見ていて何だろって思い
「な〜に?さっきから熱い視線でオレのこと見ちゃって」
と わざと奈緒ちゃんの間近に顔を近づけると、彼女は真っ赤になって

「違っ。あの、ブレザーのボタンが…」


と しどろもどろになって俯いてしまった。
「ボタン?」

見ると袖口のボタンがプラプラしていた。

「あぁ、これね」

スタッフに言えばすぐ直してもらえるしと思って悠然としていると

「あの、私、良かったら付け直します」

と奈緒ちゃんが言った。

「え、そう?」

せっかく申し出てくれたのに断るのもなんだからとオレはブレザーを脱いで彼女に渡した。

すると奈緒ちゃんはカバンからソーイングセットを取り出し手際良くボタンを縫い付けてくれた。

「サンキュ。いつもそれ持ち歩いてるの?」

「はい。たまに衣装がほつれてたりするんで」
彼女ははにかみながら微笑んだ。


その笑顔を見た時、グッと来て ヤバッ と内心慌てた。

……。

その笑顔反則でしょ


……。



それは、なんでもないひとコマ。


そう。
そんなの彼女がフツーに見せてる笑顔。


だけどそれは翔の為でも京介の為でもなく、オレだけの為に見せてくれた笑顔で




まさにズキューンって胸を打ち抜かれた感じ。


あぁ…これだったのか。

あいつらが夢中になってた訳は…。


しまった。

やられた…。

オレとしたことがなんたる不覚。



けど、一度抱いてしまった恋心は無かった事にはもう出来なくて。
「あの…亮太くん?」

不思議そうに顔を覗かれてハッとする。



やべ…オレ今顔赤いかも?

「あっ、そろそろいこか?撮影始まるし」

なるべく平静を装って奈緒ちゃんの前をスタスタと歩きはじめる。

危ない危ない。

バレないように


気づかれないように…。


オレは後ろをふりむかずに歩き続けた。


「あっ、待って。亮太くん!」

奈緒ちゃんは可愛い声でそう言うと、トコトコと駆けて来てオレの半歩後ろをついてくる。


絶妙な距離感。

この娘 こーゆうの計算してる訳じゃないんだろうな。



ふぅ…。

翔みたいに満面の笑みで奈緒ちゃんに接する事が出来たならもっと楽なのに。


素直じゃない自分の性格を呪いながらオレはそっとため息をつくのだった…。
 

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