日高くんに宿題をみてもらって足取りも軽くレッスン室を後にすると、出口に真司郎がもたれかかるようにして立っていた。
「あれ?帰ったんじゃなかったの?」
真司郎はそれには答えず、にじり寄って来た。
「今まで何してたんや?」
「何って日高くんに宿題を…」
「アイツのこと好きなんか?」
突然の問いにアタシは絶句した。
その沈黙を肯定ととらえたのか真司郎は私を壁に押し付けた。
「なんでアイツなんや?」
「だって日高くん、頭いいし、優しいし、かっこいいし…っ!」
その瞬間いきなり真司郎に唇をふさがれた。
「なっ、なに」
「それ以上聞きとうない。お前はオレだけ見てればええんや」
「えっ、それって…?」
「ホンマ、千晃鈍感すぎ!オレがお前のこと好きだって気づいてなかったんか?」
「そんなの知らないよ。真司郎はいつも意地悪ばかりしてくるし、優しくないし…って、これアタシのファーストキスだったんだけどー!」
すると、真司郎は驚いたようで眉根を寄せた。
「そうだったんや…」
謝るのかな?
と次の言葉を待っていると真司郎は不敵な笑みを浮かべた。
「おんなじやな」
意外なセリフに呆然と真司郎を見上げていると
「今はしゃあない。けど、必ずオレのこと好きにさせてみせるわ」
ニヤリと笑って真司郎は走り去ってしまった。
…今の、なんだったの
アタシはしばらくぼんやりと立ちつくしていた。
真司郎と出逢ってから3ヶ月あまり…。
初めて出会った時の真司郎の印象は最悪だった。
上京したばかりで右も左もわからない私にクラスメートのニッシーは優しくて、私は彼をとても頼りにしていた。
ニッシーを訪ねて教室に来た真司郎を紹介された時、私のことを上から下まで品定めするように見てから放った一言は…。
「なんや、モデルあがりってゆうから期待してたのに、芋くさいネェチャンやな。しかもちっさ!」
あ〜今思い出しても腹が立つ!
年下のくせになっまいき!
でも同じユニットでデビューする為レッスンを重ねている今、アイツのコトを避けるわけにも行かず…。
顔を合わせる度にチラリと不敵な一瞥を浴びせて一言ふた事憎まれ口をたたく真司郎。
悔しいけれどダンスはすごく上手くて歯が立たない。
そう言えば、苦手なパートを繰り返し練習してひとり途方にくれてた時、いつから見ていたのか真司郎が現れて黙々と指導してくれた事があったっけ。
その他にもアタシが困ってる時、何気なく手を差し伸べてくれるのはいつも真司郎だった。
「…ふぅん」
呟いてアタシは歩き出す。
なんだかんだ言っても真司郎はいつもアタシのそばにいて誰よりもアタシのコト見ていてくれたのかもしれない。
にくったらしいヤツだけど、キスされても不思議とイヤじゃなかった。
それってどーゆう…?
なんとなく新しい想いが芽生えはじめてる予感に首をかしげながらアタシは家に向かったのだった。
〜fin〜