創作の部屋
□ポーカーフェイス!
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カナワ大学の「ポケモン研究同好会」では、しょっちゅういなくなる部長を除いて、日夜暇つぶしの研究がなされている。
たとえば屋外に出て野生のポケモンを眺めたりだとか、ユキの描く絵の素材としてスケッチをしにいったりするのである。
ときには真面目にバトルをしてそれぞれの戦法をルーズリーフに書き留めたりするのだが、そんなことは2か月に一度、あるかないかの頻度だ。
しかし、あいにく今日の天気は雨。
外に出ようものなら、たたきつけるような雨粒によって全身びしょ濡れになるだろう。
「はーぁ。先輩は雨の中、カッパ着て外に出てっちゃうし…じめじめしてワックス固まりにくいし…雨の日っていいことないっスね、ホント」
そう愚痴をこぼすのは、風紀委員の間では有名なイサナだ。
なにかとからまれて生徒指導を強いられているらしい。この学校に入学してから、毎月行われる頭髪指導に毎回引っかかっている。
「破天荒っていうかなんて言うか…」
「『雨の日はアメタマ日和だ!』だって。バカもほどほどにするデスよ」
そういって椅子をくるくる回しているのは、彼の先輩のユキだ。
彼女は不機嫌そうに机に突っ伏すと、ペン立てから鉛筆を取り出して遊び始めた。
申し訳程度に流れているラジオからは、「台風7号」の単語がちらほらでてきている。窓の外は真っ暗で、時折吹きつける強風に窓が悲鳴を上げていた。
「川に落ちたりしなきゃいいけど。テツ、泳げないんだし」
「!!」
「冗談」
声の主は、ソファで参考書をめくっているルナだ。湿気のせいか、髪の毛がいつものようにまとまっていない。
ちなみに、スイレンは迎えに来てくれた車で先に帰ったらしい。
「あ」
ふいに、ユキが思いついたように言った。
疑問符を浮かべるイサナとルナだったが、彼女がどこからか持ち出してきたトランプを見て「ああ…」とため息に似た反応をした。
「どうせ暇デスから、3人でポーカーでも?」
「俺はパスしとくっスよ」
「えー…ノリ悪いデスよチャラ男のくせに」
「俺はチャラくないって!!」
反論したわりに、ユキはまったく動じない様子で3人分のトランプを切り始めた。
一人につき5枚。どうやらマジでやるらしい。
「へぇー…けっこう良いの来てるデスよ」
「まじスか!?」
「…次でストップとかやめてくださいよ」
「いーや。次で止める」
「「(マジかよ……)」」
――こうして、3人はしばらくトランプゲームで時間をつぶした。
***
雨脚は次第に弱まり、風も大して気にならなくなってきた。
近くの池でアメタマを眺めていたテツは、レインコートのフードをとって時計を見つめた。
時刻はそろそろ最終下校時刻を指すところだ。
「あっ、やっべ!」
いまだ雨粒でぬれたレインコートをひきはがし、学校に向かって走る。
よく見れば、髪の毛も相当濡れていた。
途中水たまりに足を突っ込みそうになったが、ギリギリのところでかわしてひた走る。
校門をくぐり、部室の前に来たところで、盛大に滑り、こけた。
煤uい゛っ…たぁ!!?」
涙が出そうになるのをぐっとこらえ、すがるように部室の扉を開けると、案の定きょとんとした表情のユキが真っ先に目に入った。
「…どうしたデスか」
「悪い!こんなに遅くなるつもりはなかったんだが…って、なにしてるんだ?」
視線を移すと、ユキの前に座っているルナは机に突っ伏していて、イサナはソファで死んだように転がっていた。
まるでユキに殴られ…いや、制裁を受けた後のような光景だ。
「トランプゲームやってたデスけど、この二人が半端なく弱くて」
「…いや、ユキさんの引きと話術が妖怪並みなんスよ…ぐはっ」
「ろ…ロイヤルストレートフラッシュ決められた…ガクッ」
「オイ。約二名死亡したぞ」
怪しげに笑うユキの表情からは、彼が離れている間に何があったのか、想定することができなかった。
後日、イサナから聞いた話だと、ギーマさんとタメ張れるようなプレイだったらしい。
それいらい、部室にトランプを置くことは禁止されてしまったそうな。
短いけど、おわり