企画・頂き物

□二丁飛車に追われる夢を見た
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なまえが目を閉じてしばらくすると、すうすうという寝息が聞こえてきた。

「マジで寝やがったよい…こいつ」

タオルケットを掛けているとはいえ、足はしっかりと二本太陽に晒されている。
スカートの丈が短くないのが救いだろうか。
いやいや、別に見たいとかそういうことでは決してないが。

「無防備にもほどがあんだろい…」

そうは言っても、なまえとは一回り近く年が離れているのである。
向こうから見ればオッサンで、しかも教師。
何も意識していないのか、信頼されているのか、はたまた両方か。

なんとも言えない気持ちになったマルコは、呆れたようになまえを見る。

「…変な奴」

寝顔の上半分はアイマスクで隠れていて見えないが、すっと通った鼻筋に、薄く開いた唇。
化粧もしていない、ピアスも開いていない、髪を染めている風でもない。
その自然体の彼女に、マルコはしばし目を奪われていた。



「…ん」

意識を放り投げてから、数十分ほど経っただろうか。
なまえは小さく身じろぐと、枕元に置いてあった携帯をぱかりと開いた。
まだ余裕はあるが、ここで寝たら起きられないかもしれない時間である。

「…起きるか」

そう呟いて上体を起こし、伸びをしながらアイマスクを外す。
そして、マルコと目が合った。

「うっわ!!!!!」
「でけぇ声出すんじゃねぇよい」

目の前で大声を出されたマルコが、耳に指を突っ込んでしかめっ面をした。
至近距離にいたわけではないが、マルコがいるとは思わず、驚きに目を丸くさせたままなまえは心臓に手をやった。

「あぁびっくりした…まだいたんですか」
「それが教師に対する言葉かよい」

新聞をばさりとたたむと、服に付いたほこりを払う。
なまえも手際よくマットとタオルケットをたたむと、元あった鉄の箱の中にぽいと収めた。

「随分準備が良いこった」
「大変だったんですよ、ばれないように運ぶの」
「無駄な苦労をする奴だよい」

妙に自慢げに言うなまえに苦笑しながら、マルコもまた、その箱の中にクッションを放り込んだ。

「…口止めしないんですか?サボってたの」

不思議そうになまえはマルコを見上げる。
実際なまえはサボっていたわけではないし、勝手にこの教室に入ってたことを差し引いても、ばらされればはるかにマルコに分が悪い。

「お前ェは言わねぇよい」

くっ、と目を瞑って小さく笑うマルコ。

「言えば、この教室の鍵、替えられちまうからねい」
「…っ」

ずばり言われて、なまえが小さく詰まる。

「好きなんだろい?ここで昼寝するのが、よい」
「…ちぇ。口止め料にケーキでももらおうと思ったのにな」

悔しそうにそう言うなまえに、マルコはにやりと笑った。

「俺を脅そうなんて、十年早いよい」

言って、新聞を片手に扉のほうへと向かいだす。
その背中に、非難も好意も含まれないなまえの言葉が投げられた。

「…また、サボりにくるんですか?」
「心の洗濯と言えよい」

それは、小さな協定。

少しだけ先生の顔をして、マルコは首だけでなまえに目をやる。

「そろそろチャイム鳴るだろい。行くよい」
「あ、はい」

鍵ごと扉を引いたマルコが、振り返って笑う。
それにつられたように、なまえもくすりと笑った。

「………」
「どうかしましたか?」
「…いや、なんでもねぇよい」


なんだ、笑えばちゃんと可愛いじゃねぇかよい。


普段なら、余裕でからかいながら言えるその台詞が、なぜかマルコは言葉に出せなかった





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