企画・頂き物
□二丁飛車に追われる夢を見た
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通称、部活動備品室。
生徒に稀に呼ばれるその教室は、四階の隅の方にひっそりとあった。
要するに「なんとなく捨てられないもの」置き場で、開けられるのは年に数回、大掃除のときのみ。
近くの教室も空き部屋だったりと、あまり人が行き来しない場所になっていた。
だが、この教室の鍵は
「よ、っと」
マルコがドアを強めに横へ引くと、南京錠を留めていた金具がネジごとドアからすっぽ抜けた。
そう、かかっていないも同然なのである。
このことにマルコが気付いたのは数日前。
単純に中を見てみたいと思ってやってきたら、鍵を開ける前に鍵ごと外れてきた。
鍵を持ち出さなくていいのはなかなか便利で、しかもしっかり閉じれば外からは鍵がかかっているように見える。
「絶好のサボり場所だよい」
鼻歌を漏らしながら、棚だらけのほこりっぽい教室を進む。
スチールラックには取り留めなく、ラクロスのラケットだの、マーチングバンドのフラッグだの、編み物の本だのが雑多に押し込められていた。
どれも今はない部活のものだろう。
そのラックの間やら壁際やらには古びたベンチがいくつか転がっており、横になるかとマルコは適当な場所を探しだす。
と。
「!!!」
ガタガタ、と扉に手をかける音が教室に響いた。
こんな部屋に誰が、と驚くと同時に、自分が手にしている新聞紙やら枕代わりのクッションに気付く。
扉の向こうの人物が生徒だろうが教師だろうが、こんな姿を見られたらアウトである。
「隠す場所…っと」
辺りを見回して、咄嗟に目に付いたのは消火ホースが収められている大きな赤い鉄箱。
この中ならほこりもさほど酷くないだろう、とマルコはそれを開ける。
「っ、なんだよい!?」
その中から出てきた物にマルコが驚いて声を上げたのと、扉ががらりと開いたのは、同時だった。
「………」
「………よい」
扉の前に佇んで目をぱちくりとさせる女生徒と、飛び出してきたマットとタオルケットに埋もれるマルコ。
「…いや、俺のじゃねぇんだよい!」
「私のです」
「…は?」
その女生徒は扉を閉めると、マルコのところへ歩いてきて、そのマットたちを拾い上げる。
「お前、の?」
「そーです。説教でもしますか?クッションと新聞紙抱えて」
そう言って、少し可笑しそうに笑った。
マルコは苦虫を噛み潰したような顔で、頭に手をやった。
「まさか先客がいやがったとはよい」
「私も、まさか同じ事をする先生がいるとは思いませんでしたけど」
そのマットを慣れた手つきでベンチに広げる女生徒の姿を見て、マルコは溜息を吐いて別のベンチに腰掛けた。
「その上履きは…三年かい。名前は?」
「二組の新戸なまえです。マルコ先生。おやすみなさい」
「待て待て待てよい!なに寝ようとしてんだよい!」
ご丁寧に棚から取り出したアイマスクをつけて横になろうとしたなまえに、慌てたようにマルコは手を伸ばす。
その声になまえはゆっくりと上体を起こすと、ずらしたアイマスクから不機嫌そうな眼差しを返した。
「…寝に来たんですよ。マルコ先生だってそうなんでしょ?」
「それを言うなよい…一応教師として、サボりは見逃せねぇよい」
「自分はクッション抱えてそりゃないでしょ」
「大人は大人、子供は子供だよい」
その言い回しにかちんときたように眉を跳ね上げるなまえ。
「言っておきますが、私はサボりじゃありません。選択授業の関係で一時間空いてるんです」
「んな…」
「わかりました?サボってるのは先生だけです」
ふん、と音がしそうなほど鼻で息を飛ばすと、なまえはまたマットにごろりと横になった。
確かに三年は選択科目の組み合わせによっては一時間空きが出る。
大抵の生徒は、友達とくっちゃべったり、図書室で本を読んだり自習したりと思い思いに過ごすのだが。
マルコは言葉に詰まると、はぁと大きく息を吐く。
「わーったよい。好きにしやがれ」
頭をガシガシと掻くと、諦めたようにマルコはベンチに腰掛けた。