企画・頂き物

□水に浮かぶ泡沫
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たまたま寄った無人島。
たまたま見つけた遺跡に、たまたまあった宝物庫。
しかし、たまたまお宝がそのまま残っているなんて虫のいい話があるはずはなく。

「まー、そううまい話はねぇ、か」

空き箱を蹴飛ばして、エースが至極残念そうにそう呟いた。

「結局遺跡見物になっちまったなぁ。あー腹減った」
「ったくエースよい、お前の脳みそは胃袋…ん?」

ふと、マルコが床に目をやる。
エースが蹴り飛ばした箱の陰、石造りの床の奥のほうに、何か光るものが見えた。

「…エターナル、ポース…?」

それを手にして、マルコは呟く。
泥だらけではあるが、確かに見慣れたそのものであった。

「行き先は…なんだこりゃ、書いてねぇじゃねぇかよい」

本来なら地名が書かれているはずのプレートには、何も刻印がない。
しかもひっくり返すと、ゆらゆらと指針は頼りなくふらつきだした。

「壊れてん…のか?」

エターナルポースが壊れるなど聞いたことがない。
しかし針は定まらず、ゆらりゆらりとあらぬほうを指し続けるばかりだ。

「おーいマルコー!そろそろ出るぞー!」
「あぁ、今行くよい」

背中から掛けられた声に、マルコは汚れたエターナルポースをシャツの裾で拭うと、それをポケットに入れた。

壊れているのが珍しいからか、後で調べてみようと思ったのか、それはわからない。
ただ、なんとなくそうしてしまったとしか言いようがなかった。

「よぉマルコ、なんかあったか?」
「いや、壊れたエターナルポースがあっただけだよい。ほれ」
「なんだこりゃ。使えねぇじゃん」

呆れ気味にそう言うサッチに同意しながら歩いていると、ふと後ろから声を掛けられる。

「マルコ、それは…エターナルポースじゃないのか?」
「ビスタかよい。あぁ、遺跡で拾ったんだが、ご覧の通りポンコツだよい」

放り投げられたそれを手にしたビスタが、ふむ、と検める。
そしてそれをマルコに返しながら、何か考えるように口を開いた。

「エターナルポースは、それを包むガラスが割れぬ限り、壊れることはないというが」
「割れてはねぇが、どこも指さねぇんじゃ壊れてる以外ねぇよい」

肩を竦めるマルコに、ビスタはやはり真剣な眼差しを向けた。

「この海で、ログポースとエターナルポースは疑わないというのが鉄則。そうだろう?」
「…まぁ、そうだけどよい」

確かにその通りだが、針が定まらないものを疑うなと言うのはいささか無理がある。
ビスタもそれは思っているようで、自問自答するように目を閉じて息を吐いた。

「それはそれで、何かを指しているのかも知れんな」


「なにか、ねぇ…」


寝転んだベッドの上でくるくると弄びながら、マルコはふむ、と息を吐く。
使い方は知っていれど、仕組みや原理はさっぱりだ。
相変わらずゆらゆらと定まらない針を見詰めて、お手上げといわんばかりに肩を竦めた。

「まぁ、とりあえず置物にでもしとくかねい」

深く考えるつもりなど毛頭ないらしく、そのエターナルポースをサイドテーブルに置く。
ごろりとベッドに横になると、ひとつ伸びをして天井を見上げた。
ドアの外から聞こえてくるどんちゃん騒ぎに、マルコはくっと小さく笑う。

「まぁだ飲んでんのかねい。まったく、酒が好きなのか騒ぐのが好きなのか…」


そのとき。


「っ、な…!?」

異様な感覚に、マルコは思わず声を上げた。

確かにマルコの体の下にあったはずのベッドが、急に水面になったような感覚。いや、実際にそうなったとしか言いようがない。
なぜかいきなり水中に落ちたマルコは、軽くパニックに陥った。

(どういうことだ…よいっ)

なんとか抜け出そうともがくが、急速に体の力が奪われていく。
さらにあたりの冷たい水は渦巻き、底へものすごい力で引きずり込まれる。

(や、べえっ…空気ッ…)

意識がぐらつきかけたそのとき、突然水の流れが変わったのを感じた。
吸い込まれるような水流から、吹き上がるような水流へ。
凍てつくような冷たさが和らぎ、それと同時にマルコの指がぴくりと動いた。

(…動く…っ)

なぜか自由を取り戻した体を必死に動かして、光が揺らめく水面の方へ向かう。
泳いだのなんていつ振りか、思い出す余裕などまったくなかったが、とにかく手当たり次第水を掻きまくった。



「…っ、ぶ、ふぁっ!!!!」

空気を求めて、一気に顔を水中から跳ね上げた。

大きく肩で息をしながら酸欠の脳みそに空気を送り、顔にまとわり付く水を掌で拭う。
ぱしゃぱしゃと自分から滴り落ちる水音が響く中、ぼやけた視界がだんだんとクリアになっていく。
そして、その光景に言葉を失った。





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