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過去ログはB長編小説 協奏曲ロ短調(次のWEB拍更新時に追加予定) にて☆


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艶やかな長い黒髪を真っ直ぐに垂らした女性が深く息を吸い、揺るぎないクラリネットの低音で、しかしひっそりと主題を提示した。

その主題をオーケストラが代わる代わる引き継ぎながら、盛り上がりを見せていく。


そして静寂が訪れ、彼がチェロを構えた。


弓をひく、長い指。

すらりと伸びた黒いスラックス。

指揮者に向けられた真剣な目。


仁の奏でる迷いの無いチェロの振動と抑揚に、俺は聞き惚れた。




協奏曲ロ短調





「なんでクラリネットにしたの?」


靴箱に向かいながら仁に聞かれた質問に、思わずどきりとした。


「だって…俺が中学でやってたサックスはオケには無いし…」

「てっきり亀は弦に来ると思ってた」

「なんで?」


だって、と言うと同時に仁はちょっとにやりとした。


「最前列じゃん、バイオリンとか」

「な…、そんな理由で選ばないって!」


サックスだって別に最前列じゃなかったじゃん、と怒りながら、俺はオケ部に入るきっかけとなった春休みの仁の高校の定期演奏会を思い出した。


俺のご近所さんであり幼なじみであり、実は一年ほど前から付き合っている仁とは、仁が私立中に通うことになった後もよく一緒に遊んでいた。

学校こそ違ったものの、仁が吹奏楽部に入ったから俺も吹奏楽部に入り、仁がサックスを選んだから俺もサックスを選んだ。

真似したがりという訳ではないが、仁がやっているのを側でずっと見ていて自分もやりたくなったのだ。


そして、俺が仁を追って同じ高校に入学する事が決まったあの春休みの定期演奏会。

毎年伝統的に引き継がれていくチェロ協奏曲のソリストとなった仁を見て、

協奏曲の先頭に立ち、密やかにチェロを支えるクラリネットをいつの間にか志望していた。


「で、どう?クラは」

「ん〜…楽譜が、黒い」

「あぁ…だろうな。」


まぁ頑張れ、と完璧にひとごとのように笑われる。

でもそんな仁と同じ制服を着ている今は、全てが幸せだ。


「ねぇ、今日仁のうち寄っていっていい?」

「あぁ、別にいいよ。」


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