中編

□5.押してもダメなら引いてみろ、相手も大喜びだ
1ページ/2ページ




「はぁ〜…」

「どないしたん?志摩。」

熱を出して学校を休んだ次の日。
いつもやったら追いかけてくるはずのあいつが来ない。
ようやく静かな日々が戻ってきたと思ったが。
ちょお寂しいかもしれまへんわ。

…いやいや、あいつが来たらうるさいだけや。
これが丁度ええ。
と言うか、これが普通。

「ちゃうわ、絶対ちゃう。」

「だから何がやねん」

「…っ、坊!?」

気付けば仏頂面をした坊が隣にいた。
そや、今塾に向かっとる途中やった。

「さっきっからどないしたん?
溜息ばっかりついとるぞ?」

「いや…今日はあいつ居ぃひんなと思いまして。
坊、見ました?」

「はぁ?!
何や、志摩あいつの事好きなん!?」

「んなことあるわけないやないですか!
どうしたらその結論に繋がるん!?」

心配したりびっくりしたり忙しいお人や。
せやかて、俺が何で俺があんなやつのこと好きにならんとあかんねん。

一人黙々と考えていると、坊も何かを考えていたみたいで。
ぽつりと。
こんなことを言いはじめた。

「せやなぁ…
いくら志摩を守るため言うてもあれは言いすぎやったかなぁ……」

「…え、坊あいつに何か言いはったんですか?」

「おん。
"押してもダメなら引いてみろ、相手も大喜びだ"ってな。
反応がいつも通りやったし…あんま気にしとらんと思ぉたんやけど。
まぁでもよかったんとちゃう?
おかげで静かやし。
…って、志摩?」

俺が居ぃひん間にそんなことになっとったんか。
確かに、あいつが居ぃひんかったら静かやし1日中走り回ることもないし。
楽っちゃあ楽、なんやけど…
何や物足りん。

これじゃ、まるで…

"恋しとる"みたいや…。

「すんません、坊。
先に行っててくれはる?
ちょおあいつんとこ行ってみますわ」

「え、おい!
志摩!?」

まだ恋なんかじゃないかもしれないけど。
この気持ちが何なのか確かめたくて。

あいつに追いかけられん生活が始まったところでハッピーエンドなはずなのになぜかそれを避けてる俺がいて。

…気が付けば、走り出していた。

あいつがどこにいるかも分からないし、ましてや見つかるかどうかも不明。
だけど無償に会いたくなった。

坊が作り上げた"素晴らしき終わり"は、俺の行動によって呆気なく崩れていくのが分かった。




まだ続くの!?→
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ