青い空と真赤な君
□1st
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「来週、祓魔塾に新しい人間が来るそうですね、兄上。」
「よく知ってたなアマイモン。転入生という形で来週から通うらしいぞ」
春の麗やかな日の午後。
理事長室と書かれた些か広すぎるその部屋には
濃厚に広がるダージリンの香りと甘く芳醇なクッキーの香りで満たされていた。
そんな心地よい日差しと香りに包まれ、1人の青年というにはまだ幼い顔立ちをした少年が眠気と必死に戦っていた。
「そこでお願いなんだが、名無しさん。お前も本日から祓魔塾に通ってもらう。」
お願いと言ってるのに、命令口調になってるってことは…
あ、これ、僕行かなきゃいけないの、か……。
微睡みの中でぼんやり考えていた少年、名無しさんは突然の怒声でハッキリと目を覚ます。
「何でですか兄上!!!名無しさんは、名無しさんはっ…先ほど虚無界から連れてきたばかりですよ?!!なのに、なりたてでも上一級祓魔師なんかに会わせるなんてっ……もし名無しさんに何かあったらっ!」
「ほう。知ってたのか。では、その新米上一級祓魔師がわざわざ本部から内密に派遣された理由についてはご存知かな?」
「いえ、知りません…」
「私達の監視と、サタンの子の監視といったとこかな……本当は殺すつもりらしいが。」
「それだったらなおさら「だからだ」
「だから名無しさんを使う。まだ名無しさんがこちらに来てることは上に伝わってない。だからこそ、末の弟を守る役目として使おうと思う。」
名無しさん本人の意志は考えないとして話が進んでゆくのに一瞬嫌気がさしたが、
大切な兄の頼み(というか命令)であるのならしかたないと思いゆっくり席を立つ。
「でもっ!!危険すぎます、兄上」
「だいじょーぶだよ。アマ兄」
「名無しさん!!」
「一応、僕も水の王って肩書きはあるし、メフィ兄の頼みなら、ね。」
「助かるよ、名無しさん。ではそのように奥村先生に連絡しておかなくては…。」
事が進むのは早いな。
そういや末の弟って言ってたっけ……ってことは例の父さんの…。まぁいいや。別に興味ないし。
「くれぐれも素性をバレないように。分かったな、名無しさん」
「はいメフィ兄」
「……」
ガリッ、ガリッ
アマ兄独自の指を噛む癖。
噛むというより噛み千切りそうな強さで歯を当てたられた肉からは大量の赤い雫が滴っている。
「アマ兄、自分の身体じゃないけど、その皮ないとここじゃ生きていけないんだから、皮も大切にね」
「ぅ…」
子犬みたいな目を向ける一つ上の兄を背に
一番上の兄から手渡された資料を持ち、その場を後にした。
さぁ、どうも面倒くさいことになってしまったようだ。