桜チル記憶ノ連鎖 ―解放―

□プロローグ
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――懐かしい
少女は両手を広げ、池袋の空気を吸った。
かれこれ五年間。
この街に引っ越して、また別の場所に引っ越した。
この繰り返しだった。
でも連れまわしていた両親はすでに他界。
彼女は嬉しそうに走り出した。
まず向かったのは露西亜寿司。
ここには『サイモン』と言う黒人が居る。
彼とは五年前知り合った。
だから覚えてないはずだが。
――挨拶しとこ
露西亜寿司の前に来るとサイモンはチラシを配っていた。

「ココノ寿司オイシーヨ、安クスルヨー」
「サイモン! 覚えてる?」

彼女はサイモンに手を振る。
彼は少し考えた後、手を天秤のようにした。
「わからない」と言いたそうな素振りだ。
彼女はしょうがなく、眼鏡を取り、フードを取った。
するとサイモンは手を叩いた。

「オー、乃音ネ? ヒサシーブリ、モウ五年ニナルノカナー?」
「そうだね。サイモンどう? 静雄さんは元気?」
「元気ヨー。静雄ナラアッチニ居タヨー」

お礼を言うと彼女は走り出した。
その先には静雄とトムが居た。
彼女が静雄の名前を言おうとするとそれより先に怒鳴り声が聞こえた。
彼女の前にはチンピラ。
なにもしていないのに滑上げという始末。
しかし、その一人がナイフを持っていた。
少女は気づいた。

――男の後ろに静雄が居たことを
――静雄が何かを引っこ抜いたのを
――それを男に投げようとしていたのを






「あの、有難うございます」
「おう、怪我無いか?」
「はい。大丈夫です」

静雄が投げた標識は地面に転がっている。
其処にはピクピクと口から泡を出して倒れているチンピラの姿。
トムはため息をついたが、良かったと言わんばかりの顔をした。

「元気そうで何よりです(^_^)」
「……あぁ」

静雄は煙草を吸い始めた。
時刻を見ると十時をとうに過ぎていた。
これは流石に見つかれば警察行きだ。
それは避けたいので別れを告げて彼女は走り出した。
彼女――崎谷乃音は、風を切るように……。




プロローグ 終

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