さらば愛しき馬鹿娘

□第二章
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【主劇】ゆう

そう言えば、ここ数日、大久保さんが変だ。

まあ、前から変な人ではあったけど…そういう意味の変じゃなくて。
何かあったのかな…。
とにかく様子がおかしい。

いちばん心配なのは、ここ数日で目に見えて痩せたこと。
もともと痩せている人だけど…。
それがさらに、削げたように痩せたというか…顔や体が急に尖って見えるくらい、みるみるうちに痩せた。

また、胃の調子がよくないみたい。
忙しく飛び回っているのに、ほとんど食事に手を付けてないって、女中さんが言ってた。
お茶ですら、持って来いと呼びつける回数が減ってしまった。

あれじゃ倒れちゃうよ。

相変わらず夜遅くまで仕事をしているので、夜食を差し入れがてら、そう、大久保さんに言ったけど、うっとおしそうな顔をして、余計な口を利くなと言われた。

「別に断食しているわけではない。大げさに騒ぐな」
「だって、その痩せ方ふつうじゃないでしょ。藩医の先生に診てもらった方が…」

「医者の薬など効かん。いいからしばらくこの部屋に来るなっ!」

そのまま、無理やり追い出されてしまった。
何なの?あの態度?

それに…。
ふだんは、私が夜食つくると、調子が悪くてもけっこう無理して食べてくれるんだけど…。
その日の玉子粥は、ほんの一口手を付けただけで、ほとんど残されたまま、廊下に出されて冷たくなっていた。

そんなに、体調が悪いんだろうか…?

部屋に来るなと言われていたから、怒られるかなと思ったけど…。
私は、大久保さんの部屋の襖を薄く開けて、そうっと覗いてみた。

いつもならそれだけで気づかれて、怒られるんだけど…。

今日は…つか、ここ数日の大久保さんは、なんか時々ぼけっとしてて…。
その時も、私が部屋を覗いたことに、気づいてないみたいだった。

で、珍しく文机の前ではなく、縁側なんかに座って、つくねんと月など眺めていた。
はっきり言って、すごく似合わない。
なんかその背中を見ていて、ほんとに痩せたな…と、ますます心配になってしまった。

高杉さんに竹取物語なんて話をされちゃったから、つい発想がそっちに行っちゃうんだけど。

なんか、月に帰る前のかぐや姫を思い出してしまいました。

いや…男のひとをそんなものに例えるのは失礼なんだけどさ。

かぐや姫とおんなじで、ここんとこ異常に、表情が暗いし。
なんか、月を見て、ため息なんかついてるし。
もう、ひたすら、とにかく似合わない。

いったい何があったんだろう。

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