正助と小娘

□第一章
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【土佐藩 中岡慎太郎】

え?大久保さんがなんで姉さんにあんなにぞっこんなのか、っスか?

うーん…俺にも、よくはわかんないっスけど…。

やっぱり、あれじゃないっスかね?
初めて会ったときの、姉さんの啖呵。

あ…そうか。あれ、見てたの俺と以蔵しかいないんっスよね。
いやあ…姉さん、かっこよかったっスよ。俺も惚れましたね。

きっかけは…何だったか…。
あ、そうだ。大久保さんが、以蔵の親の悪口を言ったんスよ。

まあ、大久保さんのことだから、その後、以蔵に「親をもっと誇りに思え」とかなんとか、説教でもするつもりだったんだろうとは思ったっスけどね。
実際、以蔵のやつ、親が足軽だったとか、生家が貧乏だったとかっての、気にしすぎだと、俺も常々思ってるっス。
親の身分に関しちゃ、俺の方が…あ、ま、その話はどうでもいいっスけど。

あの時は、姉さん、大久保さんと初対面っスから。その辺の内情はわかんないわけっスよ。

で、
「あなた何様なんですか?
他人の親のことまでバカにするなんて、信っじらんない!
器の大きい所見せたらどうなんですか!?」

…と、こう、立て板に水でバシッと、大久保さんを怒鳴りつけたわけっス。

でも、大久保さんも不思議な人っスよね…。

普通、男が女に怒鳴りつけられたら、少しはムッとしませんかね?
しなくても、その後、俺の方がすごいぞと格好つけるとか、やりますよね?

大久保さんは全然そういう反応、しませんでしたね…。
姉さんに怒鳴りつけられて、まあ、本当にうれしそうで…あの後、なんかずっとニコニコしてたんっス。
もう、子どもが宝物でも見つけたような笑顔で。
俺、びっくりしたっスよ。一瞬、そういう趣味の人なのかと思っちゃいました。いや、そのことは大久保さんには内緒っスけど。

もうひとつ、不思議なのは…。
大久保さん、姉さんの名前を聞いた後、どうでもいいって言って、返事を聞かなかったはずなんっスよ。

でも、その後、俺たちと話したとき、なぜかちゃんと姉さんの名前、知ってたんっスよね。
あれって、いったい何だったんだろう…。

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