正助と小娘

□第三章
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【ゆう】

何だっけ?

初めて見た風景なのに、どっかで見た気がするのを、でじゃぶとか言うんだっけ?

これがそれにあたるかどうか、知らないけどさ。

予期しない場所とタイミングで、ものすごく見慣れた光景が登場してしまうこと。


片手に提灯を持って、もう一方の手に犬の引き綱を握って、近づいて来た人影を見て、そう思った。

本人はけっこう怒ってて、怖かったし。
年齢は、私と同い年くらいにしか見えなかったけど。

でも、このシルエットは…。

上野の森の、あれだった。


なんか、それを見た途端、自分がどの時代に飛ばされて来たのか、私は一瞬で理解してしまった。

今って…。
前いたところより、十何年か前ぐらい…だ。

つまり、大久保さんと西郷さんの、少年時代。


「あの…竜助君」
「何だよ」

「君の上の名前って、西郷?」
「そだけど?」


西郷吉之助と大久保正助。この二人の男の子は…。

イコール…西郷隆盛と大久保利通。

なんで名前が違うかわかんないけど、たぶん武市さんの半平太と瑞山みたいなもんなんだろう。


でもまだ、ちょっと自信が持てなかった。

だって、正助君って、確かに顔はそっくりなんだけど…。
私のイメージしてた大久保さんの少年時代と、あんまりかけ離れてるから。

名前が手がかりにならないんだったら…。
あと、本人って確かめる方法、何かないだろうか?

私は、必死に考えた…。

でも、なかなか思いつかなくて…。


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