正助と小娘

□第四章
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【ゆう】

で、結局は、吉之助君は竜助君をおんぶして、弥助君が犬を引いて、正助君に礼を言いながら別れた。

今まで正助君と吉之助君は、顔を知ってはいるけど、そんなに口を利いたことはなかったみたい。

特に吉之助君の方は、正助君の悪い噂は色々聞いたことはあったけど、町の人が皆で正助君に関わるなと言っているという話までは知らなかったようで、驚いていた。

こういうことってあるよなあ…。

ボス格の強い子が、つい取り巻きとばかり付き合ってると、その裏でこっそりイジメとか起きてても気づかずに見過ごしちゃうっていうパターン。

吉之助君は、自分が知らないところで村八分めいたことが起きてたことを知って、町の若衆のカシラとして至らなかったかもって、かなり落ち込んでたみたい。

うーん…。

今後は、正助君に冷たい人たちがいたら、吉之助君がかぱってくれるのかな。

だといいけど。


正助君の方は…吉之助君に土下座されたときはあせりまくっていたけど、今は何もなかったような顔で、平然としている。

「悪かったな」
と私に言うので、何のことかなと思ったら、元の世界に戻る手段を考えるのが遅くなってしまって悪かったと言われた。

それで、こっちに飛んで来た時の話を正助君に色々聞かれて、話したんだけど…。

そしたら、
「理屈はわからないけど、単純な話みたいだな」
と言われた。

私があの神社に落ちてきたとき、正助君がたまたましめ縄を切ってしまったんだと、そう教えてくれた。

だから、あれを結べば、私は元に戻るんじゃないか?と言う。

そんな簡単な話なのかな?


ただ、問題は。

あの神社には、あの別当がいる。

んでもって、正助君は、いちおう誘拐事件の目撃者なわけで…。

さすがにあの神社に戻るのは危険なんじゃないかと聞いたら、かえって早く戻る方がいいと言われた。

今は、正助君のハッタリみたいな脅しのせいで、今夜は別当も私のことを怖がって外に出てこないだろうけれど、すぐに何か変だと気づくはずだ。
それに、夜が明けて日が高く上ったら、幽霊が怖いという気持ちが薄れて、出て来るかもしれない。

ふむふむ…。

私が正助君の顔を見ていたら、
「何を人の顔をジロジロ見てるんだ?」
と、怒られた。

「やっぱり頭いいかもって思った」

あれ?何か嫌そうな顔した?

「頭いいって言われるの、嫌い?」
と、聞いてみる。

「…そう言われた時には、ろくでもない目に遭うことの方が多いからな」

「それは、ろくでもないことする人がろくでもないんで、正助君が頭いいせいじゃないよ」

「…何だそれ?」

「んーと…。他の人に変なこと言われると、正助君って割と気にするんだなーって思った。
正助君を責めるようなやつは、みんなバカだから、気にしなきゃいいのに」

「…」

「頭いいって言われたら、『ふふん、当然だ』ぐらいでいいんじゃないのかなあ」

「…その方がよっぽどバカだろ」

うーん…未来の自分を全否定しちゃいますか。


そんなことを話しながら、私と正助君は、もう一度神社に戻ることに決めた。

そろそろ夜明けが近いのか、東の空が怖いくらいの赤い色に染まり始めていた。

「なんだか今日は朝焼けがすごいな。雨が近いのかもしれない」
と、正助君が言った。

それで、夜には通らなかった近道を行こうと、神社に続く参道の石段を登り始めた。

…たしかに、これは、真夜中に竜助君をおぶって降りるのは無理だったろうな…という急な石段がけっこう続いていた。

私は、なんか実体がなくなっちゃったせいか、特にきついと思わなかったんだけど…。
正助君の方は、さすがに一晩縛られて、その後竜助君をおぶって町まで行って…なんて感じでけっこう疲れていたらしく、途中で何度か休みながら登った。

今考えると、そこで私は気づくべきだったんだと思う。

でも、私は、しめ縄を結ぶだけで本当に戻れるのかな…とか、別当は本当に出てこないだろうか…とか、別のことで頭がいっぱいだった。

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