正助と小娘

□第五章
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【ゆう】

その後、正助君は三日くらい布団から出られなかった。

本人は、食事しなくて倒れただけだから、何か口にできればすぐ動けると思ってたみたいだけど。
実際のところは、体を痛めつけすぎていて、食べ物を受け付ける力も弱くなってた。

おチビちゃんたちが言ってたように、大勢にお腹を殴られるような目に遭ったり…。
妹たちに食べ物を全部あげて、自分は食べ物と言えないようなものをかじって我慢してたり…。
ずいぶんと胃腸を傷めるようなこと、やってたみたい。

吉之助君の家も貧乏だから、ご飯というと玄米より雑穀の方が多いような茶色い消化の悪いものしかない。

正助君は長いことまともに食べてないから、ただでさえ貧血状態になっちゃってて…。
ご飯を一口、噛んで飲み込もうとしただけで体力がなくなっちゃうし、体中の血が全部そっちに行っちゃうらしくて、真っ青になって動けなくなってしまう。
しばらくすると、消化の悪い食べ物が胃に入って、お腹が苦しいのか、体をねじ曲げて、浅い息をして、目を閉じて必死にがまんしている。

…そんな感じだったから、ふつうのご飯を一膳食べられるようになるまで、ずいぶんかかってしまった。

ついでに言うと、正助君は布団で寝るのが何年かぶりだとかで、それについても、吉之助君のご両親に、ものすごく恐縮しまくっていた。

そういう様子を見ていて、私は自分が本当に苦労知らずなんだな…と、つくづく思ってしまった。


眠っている正助君の顔を見ながら、私は、うちのおじいちゃんのことを思い出した。

うちって…昔から同じ町内で道場やってるから、ご近所に顔なじみ多いし、やっぱ腕っぷしが強いと思われるらしくて…。
町内で困ったことがあると、相談を持ちかけられることが多かった。
あと、おじいちゃんの性格もあるのかな。
何かけっこう、いろんな複雑な家庭の話とか、微妙な話にかかわって、解決…とはいかないまでも、人助けに頑張っていることが多かった。

それに、自分から剣道をやりたいって言ってくる子…特に男の子には、イジメられっ子がすごく多い。
そういう中には、親にも問題のある子もいて、おじいちゃんがその子に頼られて、担任の先生やカウンセラーの人と相談するなんてこともあった。

おじいちゃんは、道場主なんかやってるだけあって、何でも道を究めようとしちゃうところがある。
だから、こういう話にも真剣に取り組んで、近所の大学の市民講座に通いつめて、児童心理学とかを一生懸命勉強してた。

私は…そういうもめごとに直接かかわりはしなかったけど。
でも、おじいちゃんから、そういう色んな複雑な事情のある子どもたちの話なんかをよく聞いていた。

最近ではおじいちゃんのボランティア(?)はもっと幅が広がって、町内の工場なんかで働く出稼ぎの外国人の家庭まで助けてて。
戦争とか飢えとか、すっごいたいへんな苦労をした子どもたちとかが、日本の学校でイジメに遭って…みたいな話も時々耳にしてた。

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