さらば愛しき馬鹿娘

□第一章
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寺田屋事件前日。午後。

【主劇】ゆう

その日、薩摩藩邸では、とっても大事な会合があった。

今まで、仲の悪かった薩摩と長州が手を結んで、共通の目的、つまり徳川幕府の世の中を終わらせるって方向に、一緒に進んでいこうってことを決めたんだそうです。

薩摩も長州も、それぞれいろいろと事情はあったし、藩の中の意見だってバラバラだし、やっぱり武器とか兵隊の話って大金が絡むしで、調整とかたいへんだったみたいだけど、何とかうまく物事が収まって、皆がほっとした。
そんな日でした。

無事、同盟が成立したので、高杉さんと桂さんは、すぐにでも長州に帰るんだって、嬉しそうに言った。
私も、今までの苦労が実って、よかったなあって思ったけど…ちょっとさびしかった。

私のそんな顔を、ちらっと横目で見た高杉さんは、

「ゆう、ちょっとその先まで送って行け!」

と言い出した。

私は、思わず大久保さんの袖をつかんで、顔をうかがって見たんだけど、なんかすっごく嫌そうな顔をしてました。

「まったく…なんでそこでさりげなくいちゃつくんだ…。別に何もしやしないぞ。

これでたぶん最後だからな。個人的には非常にくやしいが、ゆうに大久保さんの嫁としての心得を、道すがら伝授してやる」

「なっ…何の話ですかっ!私は利通さんとは何もっ!」

私はあわてて言い返す。

「気づいてたか?こいつ、最近、興奮するとポロっと『利通さん』と言うんだ」
と、横で聞いていた以蔵がさりげなく、ツッコミを入れる。

「この間、兵庫に二人だけで泊りがけの出張に行った後からっス」
「聞いた話では、大坂から京都への帰路には夜舟を使ったそうですが。大久保さん、まさか、とんでもないことはしていないでしょうね」
「やはり、大久保さんの元にゆうさんを預けておくのは、危険じゃったかのう…」

「…お前ら…」
大久保さんが、寺田屋4人組をにらんだ。
「もしや、せっかくまとめたばかりの同盟を、白紙に戻したいわけではあるまいな」

「お、大久保さんが公私混同しちゅうがっ…」
「これは、本気っスね…」

そういう騒ぎを完全に無視して、西郷さんが、
「ゆうさぁ。おいと利通はこん後も事後処理があっで、お客人の見送いを頼むでごわす」

と言うと、すかさず桂さんが、

「晋作は私が見張っておきますから、ご安心を」

と、話を進めてしまった。

うーん…。
たかだか、私が高杉さんを見送るか見送らないかで、こうだもんなあ…。

薩長同盟がなかなか決まんないわけだよね。

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