さらば愛しき馬鹿娘

□第三章
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【主劇】ゆう

目が覚めたら、病院だった。
なんか、言われなくても、わかった。

のっぺりした、白い天井。
薬の匂い。
音のよく響く廊下を、誰かがスリッパで歩いて行く音。

真っ白い無地の寝具と、クリーム色のついたてみたいなカーテン。

なんでここにいるのか、よくわかんなかったけど…。
体中が熱くて、だるかった。

だけど…体も苦しいけど…。
なんだか、頭の中がぽっかり空洞になって…もう、どうでもいいやみたいな、そんな気持ちになってた。

たぶん、私いま、すっごい高い熱出てるんだなあ…。
喉も痛いや…。

咳、出て来た。止まんない…。

そんなことが、まるで他人ごとみたいに感じられた。

体の調子なんて、悪い方がいいや。
だってそしたら、他のことを考えなくて、いいもん。

っつかさ。どうせなら、このまま死んじゃえばいいのに。
私なんか、どうせ、いらない子だもん。

いちばん大好きな人に…いらないって、捨てられちゃったんだもん。

なんか、涙出てきた。

あは。

熱が出てるって、いいよね。

熱のせいで、涙出たって、言えるもん。
咳のせいで、思わず目に涙が浮かんじゃったって、言えるもん。

…って、そんなこと言ったら、大久保さんには一言、「馬鹿か」って言われるだろうなあ…。
そういう、デリカシーとかわかんない人だからなあ…。

大久保さん…。

やばい。
熱のせいって言ってごまかしきれないくらい、涙出て来た…。
なんか回りがゆがんだガラス通したみたいに見える…。

私はあわててティッシュか何かないかって周りを見回したけど…。
何しろ、知らない部屋で目が覚めたもんだから、勝手がわかんないし…だいいち、枕元に私物なんかなかったし…。

私物が…ない?

私は、はっと気が付いた。
そう言えば…スクバと…キーホルダーは?

キーホルダー…。
確かに、大久保さんに渡されて…手に持ってたけど…。
あの後、どうなったか…記憶にない。

こっちの時代に来てから…。

私は必死に思い出そうとしたけど、現代に飛んでから、キーホルダーを見た記憶は無かった。
いつの間にか、手に握ってなかった。

そんな…。

そりゃ、神社が消えた今、キーホルダーがあってもなくても同じかもしれないけど…。

なんだか、お前は帰れないんだって、さらにダメ出しされたみたいな気がする。
大久保さんから、さらに遠くなっちゃう気がする。
そんなのいやだ。

探しに…行かなくちゃ。

私は、涙を袖でぬぐうと、ベッドから起き上がった。
だめだ、全然涙止まんない。

それに…やばい。ふらふらする。

それでも何とか、体を起こして、脚をベッド下に持って行った。
やった。ちょうどよく、スリッパあるや。

今気づいたけど私、パジャマなんだなあ…。
当たり前だけど、新鮮。
何か月ぶりだろう。

鼻をグズグズ言わせながら、どうにか立ち上がろうとした時、開けっ放しだった病室のドアから、看護師さんがのぞいた。

「目を覚まされたようですよ」と、廊下の誰かに言ってる。

やぱ…病院抜け出そうとしちゃ、やばかったかな。

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