さらば愛しき馬鹿娘

□第四章
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カナコは、突然休んだときと同じように、ひょっこりまた戻って来た。

朝の登校時、遅刻坂…駅のある窪地の底から、丘の上にある学校に向かって、まっすぐ伸びる急な坂道を上ってたら、後から早足で来たカナコに、ぽんと肩を叩かれた。

「おはよっ。何ちんたら上ってんのよ。それじゃ古典のセンセに追っつかれるって」

「へ?」

と、後ろを振り向くと、古典の爺様センセがゆっくりと、でもなんかロボットみたいに正確な足取りで、坂道を着実に上ってくるのが見えた。

「やばっ」

なぜかは知らないけど、毎朝、あのセンセが門をくぐった瞬間、学校の予鈴が鳴る。
つまり、あのセンセの前さえ歩いてれば遅刻しないわけ。

私はペースを上げた。

私は、カナコに休みの間に何をしていたか聞いてみた。

「んー、ちょっと田舎の本家で土蔵の整理」
「何それ」

「田舎の親戚ってさ、わけわかんないこと、いろいろあんのよ」
「そなんだ…」

土蔵と言えば…。
私は、スズミのこだわってた七不思議の話をした。

「は?あんなの、七不思議でもなんでもないじゃん。他にもいっぱいあるもん」
「そなの?」

「ま、古い学校だからねえ…。

中庭の大銀杏を切るとたたる、とか。
学校のある星ヶ丘って名前は、昔、隕石が落ちたからで、その後から色んな不思議が起きるようになったらしい、とか。
いまだに男子水泳部の正式ユニホームは、なぜか赤ふんどし、とか。

…女子剣道部以外の話だって、いろいろ聞いてる」

「七つ、超えちゃったね…」
「でしょ?」

カナコは、はあ…と息を吐いた。

「あと、生徒手帳に書いてある創立者以外に、実は影の創立者がいたらしい、ってのもあったな」
「影の…何それ。たかだか高校に?」

「んー…つか、創立者って人は、教育熱心で金もあったけど実務に弱かったらしくてさ。
友人に相談して、めんどくさい手続きとか、細かい決め事とか全部やってもらったって話らしいよ。

でも、その友人は開校した年に死んじゃったから、学校の公式記録には全然名前が残ってないんだって」

「なんでカナコ、そんなに詳しいのさ」

「うちも、スズミんとこと同じように蒼凛卒業した親戚が山ほどいてさ。昭和どころか、大正とか明治のころからね…。
私も知らなかったけど、今回、あっち行ってる最中に大叔母様から聞いた。

なんか、知らない間にあんた付きの御庭番にされてた気分っつか…」

「へ?」
「…こっちの話」

カナコは肩をすくめた。
「でも、ま、土蔵探検にはつきあってやってもいいよ。最近、なんかそういうの、縁があるし…。
スズミは書道部だからなあ…昔の崩し字とか読める子がいると、何かと便利かもしんない」

その時、また、私はぽんと背中をたたかれた。振り返るとスズミがいた。

「おはよっ。じゃ、決まりねっ」

「あんたねえ、黙って後を尾けて、ひとの話聞いてんじゃないよっ」
「いいじゃない。こんな道の真ん中で話してるんでしょう。秘密の話とは言えないわよね」

カナコは、額からムカッという字が浮き出そうな顔をした。
私はあわてて間に入る。

「ま、スズミさあ、今回はいいけど、次からはちゃんとあいさつしてよ」
「そうね。そうする」

スズミは全然反省してない顔で言った。

「でさ。土蔵のカギの場所、わかっちゃった。剣道部顧問の机の脇にぶら下がってる。

そうとわかれば、今夜決行ねっ」

「今夜?なんで夜なのよ」
「その方が面白いじゃない。…というか、幽霊住んでるなら、やっぱり夜に行かないと」

「ええっ…やだよ…。だったらスズミ一人で行きなよ」
私は、つい言ってしまった。

「ま、ゆうは前っから、肝試し系は苦手だもんね」
「不参加は認めないわよ。幽霊は剣道部のエースにご執心なんだから。杉浦さんがいないと出ないかもしれないじゃない」

うう…。
気軽にいいよなんて、言うんじゃなかった。

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