さらば愛しき馬鹿娘

□第八章
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目を開けると、あの、鳥居の前だった。
初めて以蔵とあった、あの鳥居。

やったっ!
…と、私は思った。

少なくとも…奈良時代とか旧石器時代じゃないぞ、ここ。

…って考えてから、不安になった。
確かに周辺の建物や竹林の様子は、すごくなじみのある感じだった。

…けど、竹林って、手入れいいと百年ぐらいじゃきっと見た目はそんなに変わんないよね。幕末かどうか、いまいち手がかりになんないんだけど。

正確には、今、何年なんだろう?
私は、ぶるっと震えた。

なんか…ものすごく寒い…。
今は、冬?
セーラーの夏服じゃ、風邪引いちゃいそう。

私はちょっと不安になった。

こないだ幕末に来たときは、夏だった。
ってことは、あの直後に戻って来たわけじゃなさそうだ。
江戸時代でも、何十年も前とかだったらどうしよう。

私は、カナコや大久保さんだったらどうするだろうって考えた。
…あ、そうだ。
前になんかの手がかりつかむのに、正助君が絵馬見たって言ってた。

私は鳥居をくぐって、絵馬の奉納してあるところに走って行った。
小さな小屋いっぱいに下げられた絵馬の中から、新しそうなのをひっくり返して見ていく。

慶応2年ってのがあった…。
よかった。過去じゃない。

慶応3年、もたくさんあった。
ちょっと不安になった。
でも、めくってもめくってもそれ以上新しいのは無いみたい…。
やった。じゃ、そんなに経ってない。

っと思ったら、慶応4年元旦ってのを見つけた。
でも数枚しかない。

…ってことは…今は慶応4年のお正月?

私は周りを見た。
確かに、神社の建物の周りには、正月飾りみたいなのがいっぱいついてる。

でも…変だ。
神社のお正月で…ぜんぜん人がいないって…。
こんなにたくさん絵馬があるのに、元旦のものが数枚しかないって…なんで?

私は、けほけほと咳込んだ。

寒いから…もあったけど。

さっきから気になってた。
何、この匂い…?
なんか、すっごく煙くさい。

近くでたき火でもしてるの?
かすかに、火薬の匂いもする。

でも、そんなことはどうでもよかった。

あれから2年もたってないってことは…。
薩摩藩邸に行ったら、大久保さんに会えるってことだ。

今はどっかお出かけかもしんないし、お正月なら薩摩に帰省してんのかもしんないけど…。
藩邸に行って、待ってたらきっと会える。

会えるんだ…。
大久保さんに。

そう思ったら、もうたまんなくなってきて。

私は、絵馬の奉納所を飛び出すと、薩摩藩邸の場所に向かって走り出した。

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