正助と小娘

□第三章
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吉之助君はすごく怒っていた。
銅像と比べると、きちっとした着物だし、刀も長いの二本差してて、生で見ると体格の大きさに圧倒される感じで、かなり怖い。

「竜助っ。
夜中に勝手に家を抜け出して…どれだけ心配したと思っている?
おまけに、探しに出てみれば…弥助まで姿が見えなくなっていると聞いて、何が起きたかと思ったぞっ。
こんなところで、こんなやつと一緒に何をしてるんだ?」

こ…こんなやつ?

なんか、けっこうムッとした。

「おまけに女連れか。こんな夜中に。恥知らずもいいところだな」

提灯の光のせいか、吉之助君は私が普通の人間と違うってことは、気づいてないみたいだった。

「確か…名前は…正助だったな?

最近は学問所や武芸の稽古にも滅多に来ないほど、金稼ぎに明け暮れていると聞いたが…。
こんな年端もいかない子ども二人を、真夜中に誘い出して、何をするつもりだったんだ?」

へ…?
何か…正助君、疑われているの…?
つか…名前うろおぼえって…幼馴染の仲良しじゃなかったの?

「ひとが何をしようが、こっちの勝手だ。お前に言う義理はない」
と、正助君は言った。

うわ…。

毎度のことながら、なぜそこで、そういうこと言っちゃうかなあ…。
この期に及んで、まだ弥助君と竜助君の失敗を隠してあげちゃうわけ?

案の定、吉之助君の疑いは…何の疑いだか知らないけど…確信に変わった感じだった。

主人の何かを察知したらしくて、犬が正助君に向かって一声吠えた。今にも襲いかかりそうに、グルグルとうなる。

「二人をこちらに返せ」と吉之助君が言った。

いや…別に奪ったわけじゃないのに…返せって…。

弥助君を見ると、もう完全に縮み上がって、正助君の着物の端を握りしめて固まっている。

正助君はやれやれ…といった顔で、竜助君を背中から降ろした。
竜助君が片足でぴょんぴょんと跳ねるのを見て、また、吉之助君の眉が吊り上る。

「お前、竜助にケガさせたのか?」

吉之助君ってば、なんでそう、正助君が悪いって方に、発想が行くわけよ?
もう、だんだんなんかものすごく非常に腹が立ってきたんですけど。

「ふん、こんなの一晩冷やしておけば治る」

だからああああ…。それじゃ本当に正助君がケガさせたみたいじゃないのよっ。

どうしてこう、すっごい反抗的な態度のくせに、またいつものことかって顔して、言い訳しないで認めるみたいな口利いちゃうんだろ。
だーっ!イライラする。

そりゃ、今まで竜助君と弥助君から聞いた話だと、なんか町中の人が、正助君のことを鼻つまみ者扱いしてるって雰囲気ではあったけどさ。

だからって、だからって…。
誤解をそのままにしとくことないじゃん。

つか…自分からわざわざ、疑われるように、憎まれるように、話を持って行ってません?

正助君には、黙ってろ、引っ掻き回すなって言われたけど…でも…このまま言われる一方なのは、やっぱやだよ。

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