正助と小娘

□第八章
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【ゆう】

私が目が覚ますと、そこは薩摩藩邸だった。

あれ…?
私、神社にいたはずじゃなかったっけ?

とりあえず…この見慣れた私の部屋は…戻って来たんだよね?
部屋の隅には、私のスクバと竹刀もあるし…。

よかったあ…。

…そう、思ったけど。

いや、ちょっと待て…とも思った。

私が今、薩摩藩邸で寝てるってことは…?

そもそも、私、神社に行ったのかな…?

その時、襖が開いて大久保さんが入ってきた。

「何を昼間っからのんびり寝腐っている」
と、いきなり嫌味を言われたけど、加減はいいのかとも聞かれた。

「はい…。なんか、すっごい長い夢、見てたみたいなんですけど…」

うん。まだちょっと、頭がぼうっとして、きちんと考えられないや。

「夢?」

「えっと…なんか、私がまた過去に飛んじゃって…。
まだ子どもの大久保さんが出てきて…西郷さんと仲良くなって…」

すると、大久保さんが、とても不思議な反応をした。

なんかものすごくびっくりした顔で、私の方を見ている。
ちょうど…ああそうだ。

初めて会って、私が啖呵を切った直後の、目を丸くした大久保さんと、同じ表情だ。

それから、なぜか急に笑い出した。
なんか、すごくうれしそうだった。

「そうか…あれは今日だったのか…。
道理で…。

初めて会いましたなどと言われた時には、いくら小娘の頭でも、どうやったらここまですっぱり忘れていられるのかと思っていたが…。

今日、お前が時を越えたのが、時系列上は私との初対面だったわけだ…」

何の話をしてるんだろう?
でも、やっぱ…これだけ笑われるってことは、馬鹿馬鹿しい話と思われたのかな。

「あの…すみません。夢の話なんかしちゃって。くだらないですよね」

「…くだらないだと?」

大久保さんの、笑顔が消えた。

あれ?なんか、怒ってる?

「だって、夢の話なんて…」

「お前はあれが夢だと思うのか?」

なんで?何かものすごい勢いで、不機嫌オーラのゲージが上がっていくんですけど?

「違うんですか?」

あれ…?
なんか間違えてるのかな…。

ここまで不機嫌になられちゃうってことは…なんか変なこと言ったんだよね?

「…もう、いい」

大久保さんはぷいと立ち上がると、部屋を出て行ってしまった。

なんで?

大久保さん…なんか…怒ったというより、恩返し中に裏切られた鶴みたいな雰囲気で、出て行っちゃったんですけど?

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