さらば愛しき馬鹿娘

□第三章
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最初に病室に入って来たのは、カナコだった。

私は、あわてて袖で顔拭いて誤魔化そうとしたんだけど、袖はもうすっかり濡れてて全然水分を吸ってくれなくて。
涙でグジョグジョになった顔、思いっきりカナコに見られてしまいました。

カナコは…なぜだか知らないけど、私の顔見て、ものすごくギクッとして、硬直した。

「あ…あのさ…ゆう…」

そこまで言って、困ったように黙ってしまう。

「カナちゃん…あれから…私が消えてから、どれくらいたってる?」

私は、何気なく聞いた。
カナコが、さらにサーッと青ざめた。

「あんた…その…日付がわかんなくなるような…目に遭わされたの?」
「へ?」

「あの…言いたくなきゃ…いいんだけどさ。
時間がわかんなくなるような場所に閉じ込められてたとか…薬か何かで眠らされてたとか…そういうことじゃ、ないよね?」

「え…」

カナコがあわてて、両手を広げて押しとどめるようなゼスチャーをする。

「む、無理に聞こうとは思わないわよ。
その…いつものほほんとしてるあんたがそこまで泣くくらいだから…相当辛いこと、されたんだと思うし…」

えええーっ。

私は、ふと、ベッドわきの時計に目をやった。最初から、これ見てればよかった。
あれから、3日たってた。

カナコは、とっても真剣な顔で言った。

「ごめんね、ゆう…。あたしらだって、いちおう女子高生だしさ…。
あんな、人気のない物陰ばっかりの場所に、土地勘もないのに…、あんたを一人で置いてくべきじゃ、なかったよね。
そんなの…、いまさら謝っても、仕方ないのはわかってるんだけど…」

なんか、カナコまで泣きそうな顔をしていた。

「ほんと、辛いとは思うけどさ…。
私に…その…言ってくれれば、少しは楽にならないかな?

あの…私に話しにくかったら、ご両親、呼んで来るよ。
お母さん、今、心配し過ぎて倒れちゃって、別室でお父さんが看てるんだけどさ…。すぐ来るから…。

とにかくさ、すぐ事情聴取したいとは言われてるけど、あんたも、いきなり警察の人に会うのは嫌でしょ?」

なんだか…ものすごい、誤解をされてる…。
なんか、とんでもなく、大きな騒ぎになってる…?

「あの…カナちゃん…。私…別に、ひどい目になんか遭ってないよ?」

カナコは、きっ、と目を吊り上げた。
「そんな、世界の終りみたいな顔して、ぼろぼろ泣いてて、何もなかったなんてこと、ないでしょ?
心配させたくないのはわかるけど、つらいならつらいってちゃんと言ってよ。

だいいち、あんた、うわ言でずっと、やめて、やめてって頼んでたんだから」

ど…どうしよう。
説明…できないよ…。

私が黙り込んだのを見て、カナコはまた何か誤解したみたいだった。

「ご…ごめん。無理やり聞き出して、あんたを傷つけるってつもりはなかったから。

と…とにかく…合宿は中止になっちゃったしさ。
東京に帰るまで、ちょっとおとなしく安静にしてなよ」

「東京に…帰る?」

カナコに言われるまで、そんなこと思いもしてなかった自分に気が付いた。
京都にずっといて、キーホルダーと、帰る手がかりを探せるって…なぜかそう思ってた。

「うん…先生は、薬注射したから明日くらいには熱は少し引くって言ってるし。
ちょっとしんどいだろけど…新幹線、グリーン車取ったから…」

「…いやだ」
「え?」

カナコと話して、気持ちが少しおちつきかけてたかなって一瞬思ったけど…。
なんかまた…悲しい気持ちが、お腹の中から、あふれ出てきた。

「…私は帰るの。東京には行かない」
「…は?帰るって…東京へでしょ?」

自分でもよくわかんないうちに私は立ち上がってた。
これ以上、1ミリだって大久保さんと遠くなっちゃうの、いやだ。

「ちょっと!ゆう、どこ行くの!まだ走っちゃ…」

カナコが叫んでたけど…。
自分でもなんでそんなことしたか説明できないけど…。

病室を飛び出してた。


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