さらば愛しき馬鹿娘

□第四章
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「いやさぁ…。ふつうに日本史の知識のある子だったら、そんな大物とお近づきになったってだけで感激して、失礼のないようにって、へこへこしちゃうと思う。

幕末から帰れそうにないって状況で、ちょっと口説かれたら、こんな嫌味な人でもお嫁に行けば将来安泰ねとか誤解して、目の色変えちゃうと思うし。

だけど聞いてると、かなり勘のいい人っぽいじゃん。
たとえ歴史知識がないふりしてても、地位目当てだって感づかれて、ふられると思うよ。

それをあんた…」
と、カナコはけらけら笑った。

「いきなり怒鳴る?大久保利通を?…信じらんないっ」

「そんなに笑わなくたっていいじゃないっ」
と、私は抗議した。
でも、カナコが場を和ませるためにふざけてるのは、少し感じてた。

「まあさ。その、大久保さんって人も、相当の自信家だわ。
で、よっぽど他の女には、ちやほやされ慣れてたんだろうねえ。

たまにいるよね。金や地位目当ての女に飽き飽きしてて、初対面で自分にへつらわない女にしか興味を持たない男。
ふつうは、そういう男って俺様で、ほんとに興味がないから無愛想にしてんのに、自分が口説けばなびくって思っててうざいんだけど。

ま、そのへんはさすがに大物だけあって、ベタな口説き方はしなくても、自然にあんたが自分に惚れるだろって大きく構えてて、成功したわけだ」

「カナコ…俺様男に詳しいね」

「だって、ほら…うちの高校、けっこう政治家の息子とか多いじゃん」

カナコは何か思い出したように、顔をしかめた。

そう言えば、カナコ、ちょっと前に合唱部の副部長の男の子に追っかけまわされてたなあ…。
なんか、ぼくの高尚な哲学を理解できる女の子は君しかいないとか、寒いことを言われてた。

あの子、政治家の息子だったんだ。

カナコはぶるっと首をふると、ちょっと真面目な顔になった。

「…つかさ。
本当言うと、京都であんたが大久保利通って口走った時の様子があんまり変だったからさ。
なんか気になって、ちょっと調べてみてたんだ。実は。

で、今、あんたの話を聞いたら、なんか色々と引っかかっちゃって…」

「へ?」

カナコは、ちょっとそこで困った顔をした。
言おうかどうしようか、迷ってる感じだった。

「ゆう、も一回、確認するけどさ。
あんたは、自分は東京から来た、とは言ったけど、江戸が東京になった話はしてないんだよね?

それから、あんたが何年に生まれるかって話も、大久保さんにはしてないんだよね?」

私は、ちょっと考えてみた。

「うん。してないと思う…。それが何か関係あるの?」

「ちょっと、ね…。
そもそも、江戸を東京って名前に変えようと言い出したのは、誰だと思う?
…大久保利通」

「は?」

なんか、こっちの時代に帰って来てから、いろんなところで、大久保さんって私が思ってた以上にすごい人だったっぽいって話を聞くけど。
そんなとこまで、関わってたんだ…。

でも…。

「それってすごいことだとは思うけど…。何か意味あるの?」

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