さらば愛しき馬鹿娘

□第六章
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帰宅してみると、予想通り、両親はかなりカリカリしてたけど…。
カナコと一緒に勉強してたと言ったら、機嫌を直した。

カナコ、成績いいからなあ…。
うちの両親、カナコのこと、ときどき私の家庭教師とか、予備校の特訓クラスの講師がわりに思ってるんじゃないかって、態度のときがあるんだよね。

京都旅行の話も、やっぱりすごい嫌がられたけど…。
今度は絶対ひとりにならない、日が暮れたら宿から出ない、とか色々条件付きで許してもらえた。

それより、おじいちゃんが大変だった。
誰もいない道場に呼び出されて、正座させられて、問い詰められてしまって…。

どうしよう。

「あのさ、おじいちゃん。こないだ、ハワイに移民した女の子の話、したじゃん…。
もし、あんなふうに…私が、どこか遠くのひとのところにお嫁に行きたいって言ったら…どうする?」

「なんだ、やっぱりお前のほれた男というのは外国人なのか?」
と、おじいちゃんは言った。
「とりあえず、その男には、うちの孫が欲しければ挨拶に来いと言ってやる。
今の時代、地球の反対側だろうが、その気になれば来れるだろう」

いや…その…今の時代じゃないから、困っているんですけど。

「それがその…。本人がうちに来るのは、無理というか…」

うう…。
しかたないので、私は今までのこと、全部しゃべってしまった。

おじいちゃんは、とりあえず全部話を聞いてくれた。信じてくれたかは、わかんないけど…。

でも…ひどいじゃないですか。
話を聞いて、最初に出てきた感想は、

「なんで大久保利通なんだ。他にもっといい相手がいくらもいるだろう」

だった。

そんなことないよっ、て私は抗議したんだけど…。
年よりの歴史知識と、人生経験には勝てません。

「考えてもみろ。お前、もし結婚していたとしても、三十前には未亡人だぞ。
それも、夫の死因はテロで、骨になっても故郷には戻れん。残したものは借金の山だけ。
子どもたちはまだ幼いから、養わんといけないわけだが、明治では子連れ女などどこも雇ってくれんぞ。
…将来性皆無じゃないか」

あう。
なんか、おじいちゃんに言われると…。
29才になった私が、生活に疲れた顔して、額に膏薬貼って、ぎゃあぎゃあ泣く赤ん坊おんぶして、つんつるてんの古着を着た小さい子どもたちに囲まれて…って姿が、目に浮かんで来ちゃったんですけど…。

「でも、そんなこと言ったら、他の志士のひとだって…」
「誰が志士から一人選べと言った。上方にいたなら鴻池あたりをたらしこんでいれば、将来安泰だったろうに。
京都なら、若い公家でも紹介してもらうという道もあったな」

「もう。真面目に聞いてよ!だいたい私がそんなふうに、お金持ちとか身分の高い人とか相手に、うまく立ち回れるわけないじゃん」

なんか、話をしていて、どっと疲れました。

「それに、そんな人たち相手だったら、幕末に戻りたいなんて思わない。
私の好きなのは、ひとりだけなの」

「若いうちは、熱に浮かされたようにそういうことを言うんだ。
恋なんてものは三年もすれば冷める」

「冷めないよ。大久保さんは私のこと、ずーっと想っててくれたんだから」

おじいちゃんは、やれやれという顔で首をふった。

「こういう話は、夜にしてもらちが明かない。冷静になれんからな。
今日はさっさと寝ろ」

うー…。

なんか、父さん母さんみたいに信じてくれないのも悲しかったけど…。

いちおう話は聞いてくれたのに、そんな男のどこがいいんだみたいに全否定されちゃうのって…。
なんでわかってくれないのって…。
なんかすごく悲しい。

…ていうか、おじいちゃんの反応、なんか軽すぎっていうか…。
やっぱ、信じてもらえてはいないんだろうな…。

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