さらば愛しき馬鹿娘

□第十章
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呼びつけるなって…。
だって…呼んだらちゃんと来てくれるなんて…思わなかったよ…。

私は…何か言おうと口を開けたんだけど……。
なんか、声、出なくて…。

ぱくぱくと口を開けたり閉じたりしちゃって…。
とにかく、何も言えなくなってた。

「ふん」
と、馬上の大久保さんは、そりゃもう、ものすごーく馬鹿にした顔をして、唇をひん曲げた。

「あいかわらず、呆けおって。
私の顔に見惚れたか。その気持ちはわからんでもないがな」


う…。
えと…。
確かに軍服着て乗馬してる姿なんて見慣れないから、凛々しいなあ…とかは思いました。
でも、あの…そういうこと言ってる状況ではなくてですね…。


会いたかったよって…ずっとずっと言いたかったんです。
なんで帰したのって…文句も言いたかったです。

他にも言いたいこと、いっぱいいっぱいあったのに…。
あんまり言いたいことが多すぎると、人間って、何も言えなくなっちゃうんだな、と思った。

大久保さんが目の前にいて、生きてる。
それだけで、もう胸がいっぱいになって…。



それに…。
その…。


大久保さん…。
これって、反則です…。

燃え盛る炎の中で名前を呼んだら…馬に乗って私を助けに来ちゃうなんて…。

そんなスーパーヒーローか白馬の王子様かみたいな登場されたんじゃ…。
何も言えなくなっちゃうじゃないですか…。

そりゃま、白馬じゃなく、黒馬だけどさ。

あれ…。
それってやっぱ、見惚れた…ってことかな…。

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