季節もの他

□十五夜
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≪十五夜≫

ちょっと前の、お月見の夜のお話。

女中頭さんが、私の部屋の庭先にも、お月見の飾りをしてくれた。
石臼の上に、薩摩芋と山芋を並べて、ススキと山栗を立てたお月見飾り。

きれいだったけど…あれ。お団子がない。

私が、お月見と言えばお団子じゃないんですかと言ったら、

「団子?なんだそれは?十五夜と言えば、綱引きだろうが」
と、大久保さんは言った。

「じゃんさなあ(そうですよねえ)」
と、半次郎さんも、うんうんとうなずいた。

「綱引き…ですか?」

こっちの時代に来てから、いろんなことが私の感覚と違うので、最近は慣れたけど…。
なんでこう、大久保さんと半次郎さんの反応って、毎回、意表をつくのかなあ。

「小僧のころは、十五夜となるとヨイヨイ笠かぶって腰ミノつけて町内を歩かされたが…正直、勘弁してくれと思ったぞ」

「そげんでもすか?おいにはわっぜ楽しみやったどん…」

うーん…。腰ミノですか…。
薩摩って、やっぱり南国なんだなあ…。

でも、大久保さんの腰ミノ姿って…想像できません…。

「それって…どんな格好だったんですか…?」

私は、おそるおそる聞いてみた。

「半次郎、ちょっと描いてやれ」
「はあ」

これも意外なんだけど、半次郎さんはかなり絵がうまい。なんか趣味で絵も習いに行ってるとかで、けっこう素敵な絵を描いてくれる。

でも…。
今回描いてくれた絵は、なんかどう見ても、ゲゲゲの鬼太郎に出てきそうな南の島の妖怪って感じだった。
つか、KKK団が藁で制服作ってみましたって格好かなあ…。
秋に田舎行くとたまぁに、田んぼに稲干してあるけど、あれにトンガリ帽子と手足がついて歩いてるみたいな…。

ゲゲゲの鬼太郎と言えば…。

私は、ちょっと大久保さんの顔を見て、なんか吹き出しそうになってしまった。
右目かくしてるせいもあるけど…髪型ちょっと似てるよね。

大久保さんの肩あたりに目玉オヤジが乗って、会話してたらすっごい面白いだろうなあ…。

あ、なんか想像したら…がまんできなくなってきた…。

「何を笑っとる。失敬なやつだ」

やばい、怒られた。

「で…あの…この藩邸でも、やるんですか、綱引き」

「ああ…若い藩士連中が、やりたがるからな」

そうかぁ…。
十五夜に運動会ってのも変だけど…楽しいかも…。

つか、夜に運動会って…。
まずい…なんか、どんどん鬼太郎から発想が離れなくなってきた。

そんなことを考えてたら、藩邸の外の方から、民謡っぽいというか、掛け声っていうか、大勢の人が調子のいい大声を出しながら近づいて来る気配がした。

「カヤ下ろしの連中が帰って来たな」
「カヤ下ろし?」

「若いやつらが、綱の材料のカヤを鴨川岸までに刈りに行くなどと騒いでいたからな」

どれ…と大久保さんは、その人たちを迎えに、藩邸の門の方へ出て行った。
私も、ちょっと興味があったので、ついて行って覗いてみた。

うわあ…。

皆さん、背中にカヤをいっぱい背負って帰って来たんだけど…。
私は思わずその格好を見て…。

子泣き爺だあ…。

と思ってしまいました。

ダメだ…。子泣き爺集団に向かって「ご苦労」とか言ってる大久保さんが、完全に鬼太郎に見える…。

カヤを背負ってきた皆さんは、それを下ろすと、やぐらを組んで綱を作り始めたんですが…。
なにしろふっとい長ぁい綱なので、やぐらにぶらさがりながら、何人もで踊るようになわないといけなくて、見てて楽しかったです。

そして、十五夜の月が出て…。

私たちは、お団子じゃなくて、ふかした薩摩芋や栗なんかを食べながら、綱引きを見物した。

綱引きの綱は、私なんかが運動会に使ってたのと違って、もふもふの巨大な猫のしっぽみたいな形をしている。
それに蔓の引き紐つけて、引っ張るんだけど、なんか巨大な猫がしっぽをふってるのに、小さな人間たちがしがみついてるみたいに見えて、なんか可愛い。

綱引きは片っぽが負けそうになると、見物人が加勢に入るってルールらしくて、なかなか決着が着かない。
そうやって騒いでいると、藩邸の中にいた人も様子を見に外に出てきて…。
最初は見物してるんだけど、どんどん盛り上がって、みんなが綱に飛びついてっちゃった。

もう、すっごい人がいっぱい加わって、綱には藩邸中の男性がぶら下がっちゃう感じで、たいへんな騒ぎっぷり。

女のひとは参加できないので、私は見てるだけなんだけど…。
若い女中さんたちなんかは、きゃあきゃあ言いながら、応援してました。

なもんだから、特に若い藩士の人たちなんかは、いい格好を見せようと、もうムキになって綱を引く。
中には、鉢巻にふんどし一枚になっちゃって、がんばる人もけっこういて…。

半次郎さんもすでに応援に加わって、もろ肌脱いで、ぬおおっなんて言いながら、頑張って綱引きしてたんですが…だんだん、半次郎さん側が負けそうになってきた。

「大久保さぁ、加勢したもんせっ!」

ふと気づくと、年配のひと以外で、加わってない男性って、大久保さんだけになってた。

「なんで私が…」
「早よ来てくいやったもんせっ!負けもすっ」

「まったく…」
と、大久保さんはぶつくさ言いながら、着ていた羽織を私の方に投げた。

えっ…。

羽織をあわてて受け止めると、ふわっ、て、なんかすっごいいい匂いがした。

で、大久保さん、私の目の前で袖から腕を抜いて、肘でがばっ、て着物の上を全部はだけると、半次郎さんの応援に走って行きました。

「きゃっ…」

私は、思わず声を上げちゃって…あわてて、応援で声を上げてるふりして誤魔化しちゃいました。

もう。
いきなり、至近距離で上半身裸になるんだもん。…あせった…。
大久保さんって痩せてるけど…なんか均整とれてるってか、締まった体してるんだなあ…なんて…。
いやいや。

結局、半次郎さんと大久保さん側は負けちゃったんだけど…。
二人とも、月の光の下できらきら汗かきながら、すっごい楽しそうにしてて…。

ついには、みなさん、綱引きだけでおさまんなくなって、もふもふの綱を土俵代わりにして、相撲大会始めてしまいました…。

私も、最後には、女中さんたちと一緒に、ついきゃあきゃあ言いながら、応援してしまって…。

薩摩の十五夜も、けっこう楽しいかも…。

と、私は思ってしまいました。

【Fin】


******

GREEイベに合わせて、月照さんがらみのシリアスな昔話にしようかなあ…とも思ったんですが。
まあ、お誕生日も近いことですし(←関係ないって)…。
大久保さんセミヌードにしてみました。(←そういう話じゃないだろ)
ヾ(=;´ ェ `A

薩摩半島南部では、今でも十五夜には綱引きしてるそうですにゃあ。
(2011/9/20)

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