創 話
□春風
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自宅のリビングの、お気に入りの場所で生姜紅茶を飲みながらほっと一息。テレビの中では翔さんがまだ仕事をしている。
遅くまでお疲れ様。
時刻は23時47分。
翔さんが出ているニュース番組もそろそろエンディングを迎える頃、俺の携帯が鳴った。
「もしもし?」
『あ、松潤?どうしよう、翔くんが・・・翔くんが・・・』
「リーダー?何、どうした?」
『事故だよ、事故!!』
「はぁ?」
普段物事にあまり動じないリーダーが珍しく動揺しているのとは裏腹に、目の前のテレビでは翔さんが優等生な顔して村尾さんのコメントに頷いている。
事故どころか、怪我をしているようにも見えない。
「リーダー落ち着けって。俺今ゼロ見てるけど、翔さん普通に仕事してるよ?」
『だってあれ、履いてないだろ』
「何が?」
『翔くん、生放送で下半身丸出しじゃねーか!!』
俺は飲みかけていた紅茶をそのまま盛大に吹き出していた。
あぁ、買ったばかりのラグが・・・。
「リーダー」
『松潤どうしよう?これって絶対まずいよな、俺どうしたらいい?』
「リーダー、落ち着いて」
『落ち着いてられっかよ!!』
「いいから、よく聞いて?」
翔さんが座っているいつものデスクのいつもの席。
正面は磨りガラスになっていて、翔さんや村尾さん達の足元が透けて見えるのもいつもの事。
その、透けて見える翔さんの脚のシルエットが、確かに今日は肌色に見えている。
「見方によっては確かに履いてないようにも見えるけど、ちゃんと履いてるから」
『え、でも・・・』
「俺オープニングから見てたけど、今日はベージュのズボン履いてるよ?」
『・・・ベージュ?』
「そう。ほら、村尾さんだって今日はノーネクタイでちょっとカジュアルな感じだろ?」
翔さんが生放送で丸出しとか言うから焦ったけど、なんて事はない。
リーダーのちょっとした勘違い。
「だいたい、いくらなんでも翔さんがそんな事するはずないって」
『そっか・・・そう、だよな。ごめん、俺勘違いしてた』
そう言って、恥ずかしそうにリーダーは笑った。
でもリーダー、俺はあんたのそういう所好きだよ。
どうしたらいい?なんて言ってたけど、嵐の事心配してくれたんだろ?
リーダーも翔さんも、お互いを想うのと同じぐらい嵐を大切にしてくれている。
だから俺たちも、2人を信頼してる。
大丈夫、そういうの俺たちはちゃんと分かってる。
『ほんと、こんな時間にごめんな』
「いいよ、気にしないで」
『俺本気で翔くんがまたやったのかと思っちゃった。しかも今度は生放送で』
「え、何?」
『あ、ごめん。そろそろ翔くんから電話かかって来るから切るわ。松潤本当にごめんな、おやすみ』
『ちょ、待ってリー』
ツー、ツー、ツー、ツー。
翔くんがまたやった・・・?
しかも今度は生放送で・・・?
リーダー、確かにそう言ったよな。
ちょっと待て。
どういう事だ。
落ち着け、俺。
翔さん、何したんだ…?
いや、まさか。
まさかね。
でも、今確かにまたやったって・・・。
え?まさか、翔さんが?
・・・翔、さん・・・?
とりあえず通話の途切れた携帯電話を切って、静かにテーブルに置いた。
テレビからは、バラエティー番組の場違いな笑い声が響いていた。
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